蒸気駆動の少年  ジョン・スラデック

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早川のベスト10雑誌「SFが読みたい!」で、2008年海外作品第2位に選ばれた作品です。私が集めている河出の「奇想コレクション」の一冊です。
これはきっとコアなSF通好みの作品集だろうな~と。私は最初かなり読むのに苦労しましたが、一つ一つの作品が短いので何とか乗り切れました^^;全23編の、盛りだくさんな短篇集です。

作品は多岐に渡り、分類するのも難しいのですが…。
・ナンセンスなスラップスティックコメディ。
・作者が趣味で追求したロジック遊びの作品。
・論理が複雑に絡み合った難解なSF。
・比較的読みやすい純?SF。
・オカルトや残酷な内容を盛り込んだ作品。
・名探偵が活躍する本格推理。
・アンケートの形式をとった非小説作品。
中には全くついて行けなかった作品も正直言ってありました^^;ですが、非常にユニークな作品集であることは間違いありません。あとがきにもありましたが、きっとこのスラデックという人は天才なんだと思います。凡人には理解できない超越したとこにまで行っちゃってるのでしょうね。
それでは印象に残った作品について。

「古カスタードの秘密」
いきなりスラップスティックの王道みたいな作品から始まってます。筒井康隆風ですね。
これでこの本を投げ出さなければ、きっと最後まで読めます(笑)

「高速道路」
いつまでも終わらない高速バスの旅を描いています。途中で何度も食べる食事の内容が妙に詳しく書かれているのが印象的です。だんだんとこれが実際の旅なのかそうでないのか、混沌としてくるところが怖いです。

「悪への鉄槌、またはパスカルビジネススクール求職情報」
世界で有名なさまざまなパラドックスの論理を盛り込んだ作品です。「アキレスと亀」に代表されるゼノンのパラドックスなど、どこかで聞いたことのあるものがたくさんでてきます。

「見えざる手によって」
これまでずっと難解な作品が多く続いているので、ごく普通のミステリであるこの作品に出会ってホッとさせられます^^有栖川さんもお気に入りの作品だそうです。

「血とショウガパン」
ヘンゼルとグレーテル」を思いっきり残酷にした作品です。迫害されていた子ども達が迫害する側に代わるのが恐ろしいです。ナチス強制収容所をテーマに絡めています。

「小熊座」
ネイティブアメリカンの呪いがこもったテディベアを手に入れてしまった親子の顛末。
「3匹の熊」という有名なあの話を、白人がネイティブアメリカンを迫害した話につなげるなど、熊についてのさまざまな蘊蓄が披露されています。

「ホワイトハット」
人間にとりついて動作や思考を操作する宇宙人の侵略SFです。宇宙人が西部劇かぶれで、何でも西部劇風に行動するのがおかしいです(笑)ラストも西部劇を踏まえたものになっています。

「蒸気駆動の少年」
非道な大統領を始末するため、過去に遡り、子ども時代の大統領とロボットを交換してしまおうとする話。時代に合わせて蒸気駆動のロボットだというのが面白いです。
タイムパラドックス部分が複雑です^^;

「教育用書籍の渡りに関する報告書」
この短編集で一番好きな話です。
読まれないまましまい込まれている本が、ある日いきなり渡り鳥のように南に向かって飛び立って行きます。何百冊という百科事典や教育書、法律書などが編隊を組んで羽ばたきながら飛び去って行く様子が壮観かつ爽やかです。
ほんとにこんな事があったら、私の私設図書館の本たちは、とっくにいなくなっていることでしょう^^;やっぱり本にとっては読まれることが幸せなんだな、と反省させられました。

きっと、何編かは、琴線に触れる作品があると思います。敷居の高い作品も中にはありますが、投げ出さずに最後まで読まれることをおすすめします^^