トンコ  雀野 日名子

イメージ 1

表題作は日本ホラー小説大賞短編賞受賞作です。収められている三作とも、哀切さの漂う作品です。

「トンコ」
食肉用豚であるトンコは、運搬用のトラックが横転する事故で脱走します。トンコには、以前にいなくなった兄弟達のにおいや、声が感じられるのです。それに導かれるようにして、トンコは山野や町をさまよいます。
兄弟達との楽しかった思い出を反芻しながら歩く様子や、兄弟のにおいのする「お徳用ジャーキー」をずっとくわえて離さない姿が何とも切ないです;;
逃げたトンコと遭遇する人々の狂騒ぶりはホラーのようでもありますが、兄弟を追い求めるトンコ、場長と出会うシーン、ラストシーンとも、トンコのロードノベルといった趣でした。

「ぞんび団地」
有毒ガスの噴出事故によって、ゴーストタウンと化した「くちなし台」。そこにはかつての住人達がゾンビとなって幸せに暮らしていました。
あっちゃんは、その「ぞんび団地」の住人になりたいと願っていましたが、どうしてもゾンビになることができません。こっくりさんに聞いてみると、「ぱぱとままのひみつ」を団地の住人に渡せばゾンビになれるかもと言います。その秘密とは…?
読んでいる途中でその秘密については気づいてしまったのですが、あっちゃんが何とかして家族の愛情を得ようとする懸命さに打たれます。

「黙契」
東京で幸せに暮らしているはずの妹が自殺しているのが発見されます。兄は、その自殺の理由を知ろうとします。妹が最後に電話で話した言葉にはどんな意味が込められていたのでしょうか。
兄の視点と、首つり自殺体である妹の視点から語られているのが新しいです。この話のように実際に、死人の意識が長い間残っているとしたら怖いですね;;死体とその周辺の描写がかなりキツイです。解説の人も書いてましたが、食事前に読むのはやめた方がよさそうです。

作者は怖い話が大の苦手だということですが、「黙契」とかかなり怖かったような^^;とても表現力のある作家さんだと思ったので、これからの作品も楽しみです。