龍神の雨  道尾秀介

イメージ 1

西日本を中心に大荒れの天気で、被害も多く出ていますね。この時期に、ほとんど太陽の顔を見ていないのは夏休みらしくないです。
そんな気候にぴったり?の一冊、「龍神の雨」です。この物語の最初から最後まで、まるで「ブレードランナー」のように雨が降り続いています。

蓮と楓の兄妹と、辰也と圭介の兄弟。それぞれ本当の両親をなくし、蓮たちは母の再婚相手と、辰也たちは父の再婚相手とともに住んでいます。血の繋がらない同士が親子としてやっていくことの難しさを出だしから感じさせます。
蓮はある出来事から義父への憎悪を募らせ、殺そうと画策します。しかし、その行動が妹を巻き込んで思わぬ方向へ向かいます。
義母への複雑な感情のため、ことさら冷淡に振る舞う辰也と、板挟みになる圭介。そんな中、2人は蓮と楓が大きな荷物を運んでいるところを見ます。そして落ちた楓の赤いスカーフは蓮の元へ…。

二組の兄弟の関わらせ方が不自然でなく、きちんとつながるような出来事があるので、偶然の連続のような違和感を感じません。また兄弟同士の感情、家族への思いなど、心理面の掘り下げは深いですね。
伏線も巧みに張ってあるのですが、登場人物が少ないので途中で事件の予想がついてしまいます。そのあたり、今までの仰天するような道尾作品からすると、ちょっと残念な気がします。
ですが、辰也と楓の関わり方については予想できなかったのでなるほどと思いました。でも、辰也の行動はやっぱり問題ありますよね…体操服とか。

このあとネタバレありです。








べるさんも書いておられましたが、私も犯人が最後に打ち明けた事実は、蓮にショックを与えるための嘘だと思いました。
私が変だと思ったのは一酸化炭素のことです。楓は異変に気づいて湯沸かし器を切り、換気扇を回して台所の窓を開けました。義父は別の部屋にいて、楓が入ろうとした時には入り口は少しだけ隙間が開いている状態でした。死ぬぐらい一酸化炭素が充満しているとすれば、楓がしたぐらいでは義父の部屋の換気はできていないはずです。それなのに、楓は窓を開けてからほどなく部屋に入り何事もなく過ごしています。だから、大して一酸化炭素はたまっていなかったのではないかと思います。
死因は調べればすぐに分かるはずですから、殺人未遂と死体遺棄の罪は償うでしょうが、殺人については犯人が実行犯だということが明らかになるはず!です(たぶん)

義父は気の毒でした…。自分のやり切れなさを子ども達に振り向けていた責任はありますが、やり直そうと思っていたことが、蓮たちに伝わることなくこんな結果になってしまったのですから。義父も不器用な人だったんですね。蓮の行動のきっかけも、結局犯人のせいなのだから、やっぱり犯人は最悪です。

最後に雨が上がりました。蓮が別れ際に辰也と圭介に伝えた言葉、それを胸に置いて兄弟は生きていくのでしょう。それぞれの人生に暖かい陽の光が差すといいですね。