最後の証人 柚月裕子

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ずいぶん前にドラマを先に観ていたけれど、原作を読んだ後で改めてドラマも観直し、視点が違う事に気づきました。

ドラマは事件の動機と実施方法が伏せられていて、それが焦点になっていますが、原作では法廷で当然明らかになるべきある事がミスリードされる描き方になっています。

公判3日目になってそれが明らかにされた時には、自分が全く違う方向に引っ張られていた事が分かり、愕然とさせられるのです。

ドラマの内容をほとんど忘れていたので見事に騙されました。

 

作者がドラマ化の際に言っていたように、普通なら映像化は難しいと思われるけれど、そこが、視点の違いでしょう。

原作で伏せられていた事実は初めから分かっていて先ほど書いたように動機が徐々に明らかになるようなストーリーになっています。

原作では被害者夫婦が子供を亡くした悲しみが、繰り返し描かれていて、こういう行動に出ないとならなかった理由が胸が痛くなるほど伝わって来ます。

 

佐方の信条「罪はまっとうに裁かれなければならない」

それに従って、全ての原因だった7年前の事件について解明して行くのですが、助手の小坂が言うように

「しかし、まっとうに裁くということは、事件の裏側にある悲しみ、苦しみ、葛藤、すべてを把握していなければ出来ない事なのではないか」

佐方はそれを精一杯把握しようと努めています。

また、その真っ直ぐ過ぎるほどの思いが、彼が検事をやめて弁護士になった出来事に関わっています。

 

事件を見る方向が違うという事で、原作もドラマもそれぞれ楽しめるけれど、驚くべきミスリードのある原作を、ミステリーとして高く評価したいと思いました。