ムシカ 鎮虫譜  井上真偽

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禁足地である笛島に無断で上陸した音大生達が見舞われる災難を描いた、昆虫パニック音楽ミステリーです。こういうふうに書くととんでもない色物のように感じるけど、読み終わった時に感じる感動と清涼感はまるで「蜜蜂と遠雷」のよう。音楽に対する深い愛情が感じられるストーリーは、昆虫に襲われる気持ちの悪さを凌駕します。
タイトルの「ムシカ」は音楽を表す「musica」の他に「虫禍」でしょうか。

私は昆虫は基本大丈夫(G以外)ですが、足が多いのはダメで、その手のシーンは寒気がしました。しかも、名前の漢字に「虫」が入っているのは全部虫扱いでそれらも大量に出現します。足が無いのもダメなんですよね…。

島の虫を鎮めるためには音楽が必要ということで、音大生達は要所要所で音楽を演奏する必要に迫られます。彼らはそれぞれ音楽についての悩みを抱えているのですが、パニックになりながらも必死で演奏する中で克服したり新しい何かを発見したりしていく様子が読み応えがありました。
若い巫女たちと音大生の心の通い合いも清々しかったです。

島に伝わる謎の伝承、手足笛の秘密、不気味な巫女たち…とミステリー的な舞台設定も完璧。 これらが最後に気持ちよくピースが納まるように解決し、読後感も良いです。

ラストのオセサマと呼ばれる島の神様についてのそもそものエピソードには泣かされました。

井上さんの本は「その可能性はすでに考えた」に続き2冊目の読了ですが、だいぶ感じが違うので驚きました。
本作に出てくるフリーピアニストの奏は探偵役を務めていますが、「音楽ミステリーハンター」という肩書きがあるようで、もしかしたらこれはシリーズ物になるのかも知れません。
本作がとても気に入ったので、シリーズが続くならぜひ読みたいです。