息吹 テッド・チャン

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寡作で知られるテッド・チャンの何と二冊目の著書。でも一作目の「あなたの人生の物語」は世界のSF賞を総なめに。
私が初めてチャンを読んだのは、本作に所収の「商人と錬金術師の門」。時間SFのアンソロジーで出会いました。アラビアンナイトの世界で展開する美しい物語に魅了され、その後「あなたの人生の物語」を読んで、映画化された「メッセージ」も観ました。寡作なのが幸い?して、チャンの作品群には触れてきています。
全9作のうち、特に印象に残った作品について紹介します。

「商人と錬金術師の門」
一方通行のタイムトラベルゲートを使って、亡くなった妻を助けようとする男の話。
ラストの美しさとしみじみとした感動は筆舌に尽くしがたいです。

「息吹」
呼吸を中心とした生命活動を全く新しい視点で描いた作品です。
正直よくこんな発想ができるなと思いました。

「ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル」
ディジエントという、仮想空間で育てるデジタル生物の開発に携わる人々と、ディジエントとの関わりを描いた中編です。
何よりもディジエントを大切に思うアナと、そうではない人々との格差が印象的です。

「不安は自由のめまい」
プリズムという機械で、人生のあらゆる分岐の時間線を辿るシミュレートができるようになり、自分が実際の人生で選ばなかった分岐を辿るとどうなるかを知って、今後に生かすというのが一般的になっている世界。

発想は実に驚くべきものですが、いくつかのストーリーが並行しているのでついて行くのに混乱するかも。

正直、全体的には「あなたの人生の物語」の方が理解しやすかったと思います。
前作は活劇風の作品もあって緩急があったし。
本作は、抽象的な概念を扱った作品が多かったような気がします。ただ、上に上げたやや長めの作品は発想も見事だし読み応えもじゅうぶんでした。

「商人と錬金術師の門」が素晴らしすぎるので、この一作を読むだけでも価値があると思います。