黒牢城 米澤穂信
黒田官兵衛はリアタイしていた大河ドラマ「軍師官兵衛」でなじみのある武将です。
だから、その時のキャスト官兵衛が岡田准一くん、荒木村重が田中哲司さんで思い浮かんだのは当然と言えるでしょう。
最初、長編だと思い込んでいたのですが、思いがけず謎が早めに解けそうな展開に、連作短編集だと気付きました。
歴史ミステリーと言っても、歴史上の謎を解明するのではなく、設定を戦国時代に置いた歴史舞台ミステリーです。
荒木村重と言えば、家族と家臣を置き去りにして城から出奔した事で有名ですが、この物語の村重は、終盤近くなるまで臣の信頼厚く、魅力的な武将として描かれています。頭の回転も鈍くはないのですが、あと一歩の所で事件の核心をつく事ができません。
謎を検分し、8割方突き詰めて行くのは村重ですが最後にちらと顔を出して重要なヒントを授けるのが官兵衛です。
と言ってもまるで判じ物のようなヒントでこれを解釈する力がないと官兵衛の意図するところは分かりません。
安楽椅子探偵と言っていいのか…全然安楽でない土牢に押し込められている官兵衛ですが。
謎自体も消え去った矢の謎や、敵の首実検についての謎など、戦国にふさわしい内容です。
ストーリーが進む中で、首実検と褒賞の関わりなど歴史上の豆知識が身につくのも歴史好きには心惹かれるところです。
しかし、徐々に村重が家臣の信頼を失いかけて来た頃、全ての事件の繋がりが明らかになるとともに、官兵衛の村重に向ける私怨と大きな企みには衝撃を受けます。
また、全ての事件に関わっていたある人物の、生き地獄と言ってもいい経験にも胸打たれます。その経験こそが事件の引き金になっているのです。
ただ歴史を背景にしただけのミステリーではないと分かり、連作短編集として割に気軽に読み進めて来たのですが、重すぎる展開が待ち受けていて、主要人物が生き延びる事を知っていても胸が痛みます。
最後の一行まで読み応えのあるミステリーでした。