さよならの向う側 清水晴木

 

           

亡くなった人が生まれ変わる前に訪れる場所「さよならの向う側」

そこではマックスコーヒーを2本持った「案内人」が待っていて、最後の24時間に心残りがないように、最も会いたい人と過ごす希望を聞いてくれます。

しかし、それには条件があって、会えるのは亡くなったという事をまだ知らない人だけ。

大抵は家族や恋人に会いたいと希望する人が多いだけに、この条件は厳しいです。

でも、案内人は何とかその希望を叶えられるように、ヒントを出したり助けたりしてくれて優しいのです。

 

刊行されている2冊のうち、1巻めの中で特に好きなのは「放蕩息子」「わがままなあなた」、案内人の過去を描く「長い間」の3編です。ドラマ化された中でも、俳優さんの演技の素晴らしさもあり、心に残る作品になっていました。

 

「放蕩息子」

漆器作りの職人の家に生まれた山脇は、家業を継ぐ事なく家を飛び出し、何もなさずに酒の飲みすぎで亡くなります。

最後に会いたい人を案内人に聞かれたけれど思い浮かばず、DVDを返すのを忘れていたレンタルショップの店員を訪れます。そこでの会話が思いの外楽しく、それをきっかけに父親との思い出を思い出します。

案内人にそれとなく言われて、結局父親を訪れる事にしますが…

実家を訪れるまでの、案内人との少しすっとぼけた会話が楽しいです。案内人のペースに巻き込まれて自分のペースを狂わされる山脇の様子も笑えます。

なぜ山脇は父親に会えたのか…。

そして、父親が山脇のために残していた物が感動的です。

父親がかけてくれた言葉も胸を打ちます。

 

「わがままなあなた」

最初からいろいろと伏線のある作品です。それが回収された時、「そうだったのか!」と膝を打ちたくなるでしょう。

交通事故で亡くなった幸太郎は、会いたい相手として同棲相手の紗也加を選びます。

喧嘩して部屋を飛び出して来たため、紗也加はまだ自分が死んだ事は知らないはず…と思いながら。

幸太郎が使う言葉「毎日がエヴリデイ、幸せがハッピー」が心に響いて来る作品です。

 

「長い間」

今は「さよならの向う側」で案内人をしている谷口が人間として生きていた頃の物語と、案内人としての彼の思いが描かれます。

彼が最も会いたいと願う妻の葉子との幸せな日々、谷口の温かい人柄、マイペースで辛抱強い性格のおかげで案内人に選ばれる事になった経緯などが、ほのぼのとした筆致で描かれ、心温まります。

 

2巻目は1話目の「月の光」が素晴らし過ぎて、読み直す度に涙がこぼれます。

画家の大林は別荘で心筋梗塞で亡くなりますが、描きかけの作品の事が心残りでした。

1人でいる時に亡くなったため、まだ死の事は広まっておらず、一人息子に会うことも可能だと案内人に指摘されますが、彼は息子ではなく「パミリア」を選びます。

パミリアとは…。

ストーリーが2転3転し、そのたびに驚かされます。

その驚きには、胸を打つ感動が付いて来ます。

 

2巻めで「あれはどうなったんだろう」と気になっていた伏線もラストにはきちんと回収され、ホッとした気持ちで読み終わる事ができます。

 

作者さんから続きのストーリーがある事もお聞きしたので、とても楽しみです。