夏への扉  ロバート・A・ハインライン

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夏休みSF名作シリーズ!と勝手に銘打っているこの夏の読書ですが、前から再読したかった「夏への扉」をようやく読みました。細部はかなり忘れていたので、新鮮な気持ちで読めました。

猫のピートと暮らす発明家のダンは、恋人と親友に裏切られ、発明を取り上げられ会社からも追い出されてしまいます。そんな時に彼の目に入ったのが「冷凍睡眠保険」の看板でした。
冬になると家の十一カ所のドアのうち、どれか一つは夏に通じていると信じて、毎日ドアを開けさせては確認するピートと、凍てついた心で同じく夏への扉を探すダン。彼にとっての夏を見つけることができるのでしょうか?

この物語の中の未来は今の私達にとっては過去になってしまいましたが、まだ実現していない時間旅行、冷凍睡眠、家事をしてくれるロボットなどSFではおなじみのガジェットを使いながら、ハインラインは心躍る物語を紡ぎ出しています。
発明の才能はすばらしいけれど人間関係では要領の悪いダンが、どうやってこの窮地を脱するのかずっとダンの気持ちに寄り添って読んでしまいます。自白剤を打たれ、無理矢理冷凍睡眠に送り込まれた時には「あ~どうするのよこれから…」(忘れてる)とハラハラして、ベルの分かりやすい悪女キャラに「やなヤツ~」と腹を立て、すっかり術中にはまってました^^;

30年後に目覚めたダンは努力して新しい技術を身につけ、自分の発明品である家事ロボット「ハイヤード・ガール」を通してその本社に就職してさっそく新しい発明に着手するなど、徐々に地盤を固めて行きます。大変な目にあったにも関わらず、希望を失わず前向きに生きようとするダンの行動にはわくわくさせられます^^科学技術って、こういう不屈の精神と探求心に満ちた人たちのおかげで発展してきたんですね。
この本の中には実際にある技術の前段階と思われる発明品が多く出てきて、SF作家の先見の明に感心しました。

窮地を乗り切るのにダンの才覚が生かされたのはもちろんですが、それだけでなく仕事先を世話してくれた判事や、30年後に出会った技師のチャック、のちに出会うことになるサットン夫妻など、多くの人に助けられたところでは、伊坂さんの「ゴールデン・スランバー」を思い出しました。

今までの伏線がぴたりと収まり、ラストに向けてのカタルシスと、ラスト一文の爽やかな感動、さすがオールタイムベスト1に選ばれた名作です^^

また、猫のピートについての描写は、実際に猫を飼っている人の目で書かれたものですね。猫に対して飼い主というよりは同居人、同志として接しているのだなあと感じました。猫SFと呼ばれるのも分かります^^

このたび、30年ぶりに新訳版が出たそうです。30年、っていうのは偶然でしょうかこだわりでしょうか?
訳者は「アルジャーノンに花束を」を訳された方だそうです。あの訳の難しい作品を見事に訳された方ですから、期待大です^^旧訳版の印象が強いうちに読み比べができたらなあと思います。