花まんま  朱川湊人

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昭和30~40年代の大阪を舞台にした、すべて子供が主人公のちょっと不思議な短編集です。朱川さんはこの本で直木賞を受賞しています。
読むときっと誰でも自分の子供時代の様々な思い出が浮かぶことでしょう。大人の複雑な事情に関わったり翻弄されることになった子供達の、子供の目から見た世界が描かれています。つらい出来事も書かれていますが、読み終わったあとは胸の奥にほんのりと懐かしさと温かさが残る作品が多いです。
印象的だった作品を挙げます。

「トカビの夜」
周囲から差別されていた朝鮮人の兄弟。ユキオは弟のチェンホと仲良くなりますが、周りの雰囲気に流され、チェンホをいじめてしまいます。しかしその後チェンホは…。
「パルナス」のCMは関西方面で流れていたものだそうです。なんと、ネットで聴くことができます。確かにお菓子のCMとは思えないほどもの悲しい曲ですね~。読んでいる時は自分が子供の頃知っていた他のCMのメロディーをつい思い出してしまいました。悲しい話なのだけど、屋根の上を飛び跳ねる少年のイメージが軽やかに心に残る作品です。

「妖精生物」
子供時代に時々見かけた、怪しい物売りのおじさん。たいていは、ちょっとインチキな商品で害のないものですが、世津子が買った物はクラゲのような形の妖精生物だったのです。
妖精生物というと愛らしい感じですが、これがとんでもない生物で…><子供が持つ性への関心をグロテスクな形で表現した、この本の中では異色の作品です。ラスト一行の衝撃もすごいです。

「花まんま」
俊樹の妹のフミ子は、4才の時に熱を出してからがらりと性格が変わってしまい、大人びた言動を取るようになります。驚くべき内容をフミ子から聞かされた俊樹は妹に導かれるままある町を訪れます。
「花まんま」の使われ方に涙です;;また、俊樹が損な役回りと言いつつも妹を思う心に打たれます。

「凍蝶」
差別される家庭に生まれたミチオは、たった一人の友人もなくしてしまいます。しかしある日墓地で出会った女性と仲良くなり、毎週一緒に遊ぶようになるのですが…。
最初に出てくる「鉄橋人間」と「凍蝶」の、一見何の関係もないように見える2つのエピソードがラストに収束する流れが見事です。

大阪やその周辺に小さい頃から住んでいる人なら、きっとこの本のイメージをより鮮やかにとらえることができるでしょう。良い物も悪い物も選別せず混ぜ込んだような、リアルに息づいている大阪の雰囲気を物語それぞれから感じることができました。
また、社会的マイノリティとされる人々に目を向けているところにも、朱川さんの思いが感じられました。

「都市伝説セピア」もとても評判が良いようなので、ぜひ読んでみたいと思っています。