都市伝説セピア  朱川湊人

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「花まんま」を読んでもっと朱川さんの作品を読んでみたいと思い、デビュー作にして直木賞の候補に挙げられたこの作品を読んでみることにしました。どの作品も、底知れない怖さと悲哀に満ちていて、これがデビュー作であることに改めて驚きを感じました。

実は以前wowowで、このドラマ化したものを一部見たことがあります。「フクロウ男」「アイスマン」「死者恋」の3編だったのですが、深夜帯だったものでフクロウ男の終わりくらいから眠くなって、あとの2編は全く記憶に残っていません^^;「フクロウ男」の主演は成宮君でした。今月は再放送ないので、来月くらいにまた放送してくれないかしら…。

アイスマン
祭りで昔ながらの見せ物小屋の看板を見たカズキは、そこにいた少女に連れられて「河童の氷漬け」を見ます。偽物だと思ったカズキでしたが、一つ心にかかったことが…。
祭りの出し物の安っぽく作り物めいた雰囲気を、不気味でいかがわしく転換させた筆力に驚きます。読んでいて「玩具修理者」を思い出しました。ちょっと雰囲気似ているように思えたのですがどうでしょう。

「昨日公園」
事故で亡くなった親友と、直前まで遊んでいた公園で再び出会った陽介は、時間が巻き戻されていることを知ります。何とかして命を助けようとするのですが。
子供時代の陽介が最後にする選択に泣けました;;ラストは驚きでしたが、私は子供時代だけの話でも良かったように思います。
海外SFの短編で似た設定のを思い出しました。(「リプレイ」ではない)こちらは失った恋人を、過去に戻って取り戻そうとする話でした。

「フクロウ男」
都市伝説を自分の手で作り出し、それを本物にしたいと願う青年の話です。
「フクロウ男」としての伝説が作り上げられて行く過程を手紙で告白するという体裁で書かれています。自分の作り上げた伝説をふいにするかも知れない告白をなぜしたのか?ラストにはきっと衝撃を受けるでしょう。

「死者恋」
亡くなった画家を思い続ける二人の女性。二人の想いは増大してあり得ない方向に…。
これは怖かったです>< 一方通行の愛情は、やはりねじ曲がって精神の均衡を欠いていくのですね。ラストも効果的にイヤな感じです^^;これはドラマでぜひ見てみたいですね~。

「月の石」
リストラした社員と、孤独なまま亡くなった母に罪悪感を持ちながら生きている藤田は、電車の窓から見たある部屋のベランダに、二人の姿を見かけます。
大阪万博での母親とのエピソードはいいですね^^何で「月の石」というタイトルなのだろう、と途中まで思ってました。ラスト、奥さんには心残りなく接してあげることができたのだろうなと感じ、温かい思いで読み終わりました。

どれもはずれのない、素晴らしい作品ばかりでした。「本からはじまる物語」で初めて朱川さんの作品を読みましたが、今まで読まずにいたことがもったいなく思います。これからもぜひ追いかけて行きたい作家さんになりました^^