あるキング  伊坂幸太郎

イメージ 1

最下位が定位置の球団、仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた山田王求は、両親の願いを背負い「王になるために」育てられます。並外れた能力をもつ王求は、プロ野球選手への階段を駆け上がって行くのですが…。

作品中たびたび出てくるように、シェイクスピアの「マクベス」を下敷きにしています。原本を読んでいたので、重ね合わせながら読むことができました。幻なのか現実なのか、時々現れて不気味な予言をする三人の魔女達も、「マクベス」の通りです。
両親の狂気じみたキングスへの思いは、もう一種の呪いのようです。遺体の帽子を取り替える母親にはぞっとしました。王求はその呪いの中に捕らわれてしまっているんですね。
父親も行動が極端すぎて、本当に王求のことを考えているのか疑問です。自分たちの自己満足のために王求を育てたとしか思えませんでした。

幼少の頃から野球のことしか考えない人生、それが全てにも関わらず、野球をしている王求はちっとも楽しそうに見えません。連続ホームランを打ったり、偉大な記録を打ち立てたりしても、喜びを感じることができないのです。
マクベスは魔女や夫人の甘言に乗り、国王や友人を暗殺しますが、終始不安に苛まれ、最後には味方もなく死を迎えます。
王求の中に野球を続ける事への迷いはありませんでしたが、本当に彼を理解する者はなく、また、彼も周りの人間を愛したり理解したいという気持ちもなく、孤独な王であり続けます。マクベスと違い、ほとんど揺らぐことのない王求ですが、時々表れる獣の幻影が、王求の内面を投影したものかも知れません。

王求を「おまえは~」と呼ぶ表現で書かれている章がいくつかあります。その視点はいったい誰のものなのか気になっていましたが、なるほど…。
王求を見ていたその人に声をかけられ、その時やっと王求は自分の人生に意味を見いだすことができた、そんな気がしました。

私は野球にはほとんど興味がないので、この本を最後まで読み続けられるか自信がなかったのですが、王求が歩む道のりから目が離せませんでした。
今までの伊坂さんの作品と違い、気持ちの良い読後感とは言えませんでしたが、伊坂さんにとって実験的な意味合いの作品だと感じました。新聞連載の「SOSの猿」もとても変わった内容で、読みにくいとも思える作品でした。単行本化される時は、「あるキング」と同じように大幅に修正入るのでは?と思ってます。伊坂さんの今後の方向が気になります。



顔アイコン

この方向で進まれていくと、追い続けるのがちょっときつくなってくるかもしれません。確かに実験的な作品でしたね。同じ実験的な作品でも、「Story Seller2」の短編のようにエンタメ色の強いものだったら楽しめるのですが・・・。「SOSの猿」ももうすぐ単行本化されるようですね。 削除

2009/11/15(日) 午後 9:38 べる 返信する
.

アバター

>べるさん
このあとに「SOSの猿」…伊坂離れが助長されるのではと不安です^^;
活字倶楽部」で伊坂さんの大特集をしていて、ロングインタビューが載ってます。この雑誌のインタビューはほんとに長いので読み応えがあります。今回はまだ読んでないですが、「あるキング」についても話しておられるようです。 削除

2009/11/16(月) 午前 9:41 ねこりん 返信する
.



伊坂さんご自身は楽しまれて書かれている感が伝わってきましたが、少し戸惑ってしまった伊坂ファンが多い気がします。「マクベス」に三人の魔女が出てきたのを忘れていました。「綺麗は穢い穢いは綺麗」は、好きな台詞で覚えていましたが…。
「SOSの猿』も、今までの路線とは違うのですね?それでは、あまり期待しないよう待つことにします。
トラバ返しさせて下さいね。 削除

2009/11/16(月) 午前 11:16 金平糖 返信する
.

アバター

金平糖さん
今までの伊坂ワールドを期待すると、肩すかしかも知れませんね。
さっき伊坂さんのインタビューを読んでみたのですが、やはり意図して「読みやすさ」や「楽しさ」をはずしてみたのだそうです。「はなからディフェンダーがいないゴールに全力でシュートしました」みたいな感じだそうです(笑) 削除

2009/11/16(月) 午後 0:06 ねこりん 返信する
.



確かに今後どのような傾向になっていくのか不安な作品でしたね。「SOSの猿」も同じような実験が施されているのであれば尚更です。
あの両親の行動は気持ちの悪いものでしたね。全体的に血が通っていない印象の人物ばかりで思い入れができないのは、例え作者の意図であっても残念なことです。 削除

2009/11/17(火) 午後 0:37 [ テラ ] 返信する
.

アバター

>テラさん
あんな両親の元でなくて、もっと伸び伸びと楽しく野球をさせてあげたかったな~と思います。たとえ王になれなくっても、その方がずっと幸せですよね。
同じく「楽しい」という感じのない「魔王」もありますが、私は「魔王」は好きでした。登場人物が生き生きしてるかの差でしょうね。 削除

2009/11/17(火) 午後 5:38 ねこりん 返信する
.

顔アイコン

読みました^^
薄いのですぐ読めると思ったのですが、意外と苦戦しました^^;
それなりに自分は好みだったのですが、色々と「はてな?」な作品ではありました。野球じゃなくても感想は一緒だったかもしれません。。TBさせていただきますぅ^^ 削除

2009/11/21(土) 午前 1:16 ゆきあや 返信する
.



好きな野球が題材だったのでそこそこスラリと読めたのですが、なーんか印象の薄い話でした。覚えているのは三人の魔女の「ルラララー♪」だけかも^^;;
新刊が出るんですね!既に伊坂さんの情報に疎くなっている私はファンとは言えないのかもしれない・・・^^;
TBさせて下さい♪ 削除

2009/11/21(土) 午後 11:13 紅子 返信する
.

アバター

>ゆきあやさん
私もこの題材にしては、けっこう引っ張られた気がします。でも、伊坂さんが試したことが、成功してるとは言い難い気も…^^;
「SOSの猿」がもうすぐ出ますが、連載時より読みやすくなっていることを期待します^^; 削除

2009/11/22(日) 午前 0:27 ねこりん 返信する
.

アバター

>紅子さん
野球お好きなんですね^^この作品は全体的に温度が低い気がしますよね^^;
「SOSの猿」は新聞連載時に読みましたが、う~ん…という作品でした^^;でも、きっと修正入るはず… 削除

2009/11/22(日) 午前 0:31 ねこりん 返信する
.



実験的といわれればその通りなのかも知れませんね!でもまぁ意のままに書いちゃったというのが本音の気もしますが(笑)マクベスを下敷きにしてたんですね~。なるほど~。どうりで寓話的というか喜劇的だったわけですね^^ 削除

2010/11/24(水) 午後 11:01 チルネコ 返信する
.

アバター

>チルネコさん
シェークスピアの悲劇の中でも、「マクベス」は印象強かったです。魔女の予言が意外な形で実現する展開が皮肉です。王求の場合、マクベスよりは救いがありましたね。 削除

2010/11/25(木) 午後 7:39 ねこりん 返信する