球体の蛇  道尾秀介

イメージ 1

両親が離婚し、友彦は隣に住む乙太郎に預けられます。そこでサヨとナオの姉妹とともに過ごしますが、キャンプ場での火事が原因で乙太郎の妻とサヨは亡くなってしまいます。
乙太郎の白蟻駆除の仕事を手伝っていた友彦は、訪れた綿貫家に以前から気になっていた女性、智子が出入りしていることを知り、床下に潜り込んで盗み聞きをするようになります。

この物語は大きく2つの出来事が関わっています。まず、キャンプ場での火事。そして、綿貫家で起きた火事。そしてそれぞれの真相についてついた嘘は、思わぬ展開を引き起こします。
2つの事件の関わらせ方や、嘘から生じる事態、さすがにうまいです。
でも、この物語への不快感を最後まで取り払うことができませんでした。登場人物が、何だかみんな欲望のまま、流されるままに行動してるようなそんな感じがして…。
友彦の人生、まだ高校生だというのに波瀾万丈ありすぎですね。乙太郎もいい人なのか微妙です。それでもキャンプ場での事故がなければ、何とかバランス取って家族としてやっていけたかもですが…。サヨが危ない感じだったので、もしかしたら友彦とサヨで変な方向に行っちゃってたかも知れませんけど。友彦自体も危ないですよね。この年代の少年ってそういう危険をはらんでるのでしょうが、あまりにも思うまま行動しすぎです。

このあとネタバレあるので、未読の方はご注意下さい。










サヨの割り箸についての事件は、キャンプ場での花火のことで「サヨならやりかねない」という印象を読者に持たせるための伏線だったんですね。死んでしまう女性について、何でこんな嫌なことをする設定にしたんだろうと思っていましたが…。
キャンプ場での火事の真相は結局智子が言ったことが本当だったのでしょうか。何となく曖昧な感じで終わっていましたね。そうすると、ちょっと気になることがあります。乙太郎の背中には大きな火傷のあとがあって、智子にも当然分かりますよね。二人の間でそれについての話題は出なかったのでしょうか。乙太郎が何も話さなかった、というならそれまでなんですが。智子と友彦の前に、乙太郎と一悶着あってもおかしくないなあと思いました。
もし智子が生きていて幸せになったのなら、結局一番したたかに生き抜いたのは彼女だったのかも知れません。

道尾さんが「ミステリーではない」と言われていたように、人間模様を描いた作品のように感じました。スノードームが心情を表す小道具としてうまく使われていたと思います。そして、「星の王子さま」の蛇のエピソード。道尾さんはこの物語をくり返し他の作品でも登場させておられますが、思い入れのある本なのでしょうね。
読後感はあまり良くないですが、展開が巧みであることは間違いないです。 でも好きかどうかは…人によって分かれるでしょうね。