ペルディード・ストリート・ステーション  チャイナ・ミエヴィル

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本の雑誌」今年度ベスト10第3位、SF部門1位の作品です。マニアックそうな本で古書店に出そうもない気がしたので、図書館に行ってみたところありました。そして、その651ページという厚さと、ぎっしりつまった小さな活字の二段組みにびっくり^^;どうしようと思いましたが、せっかく見つけたので借りて帰ることにしました。忙しい時期でもあり、二週間で読めるかどうか…と思ったのですが、何とか読み終われました。

「バス=ラグ」と呼ばれる世界で最大の都市国家であるニュー・クロブゾン。そこに住むはぐれ者の科学者アイザックは、鳥人族ガルーダのヤガレクから、奪われた翼を取り戻して欲しいという依頼を受けます。飛行の研究のために数々の飛ぶ生物を集めていた彼の元に、謎の幼虫が届けられます。その幼虫はやがて夢蛾スレイク・モスとなり、大惨事を引き起こすことに…。

まず、微に入り細を穿つように書き込まれた都市の様子に驚かされました。補修もされないまま崩れ、薄汚れた多くの建物、古く巨大な建物群。汚染された川、それらに囲まれニュー・クロブゾンの中心にぽっかりと口を開けるペルディード・ストリート駅。
都市の様子と同じく細部まで描かれているのがそこに住む人々のことです。ケプリという種族は、オスは普通の甲虫と見た目も能力も変わりません。しかしメスは頭は甲虫ですが首から下は人間と同じで、人間と同様の能力を備えています。アイザックの恋人リンはケプリなのです。また、ヴォジャノーイという種族は水の持つエネルギーを利用して、水を自在に変化させて工芸品さえ作ることができます。この他にも、サボテン人のカクタシーや体をリメイクした「リメイド」など様々な生き物がでてきます。陰鬱な雰囲気と、やや冗長さを感じさせる前半を読み進めることができたのはこの多種多様な種族のおかげです。

スレイク・モスが孵化してから、俄然物語は面白くなってきて、ページをめくる手が止まらなくなります。スレイク・モスは、羽の模様で人を惑わせて意識を吸い、吸われた人間は廃人になってしまうのです。しかも、アイザックの飼っていた幼虫以外にも4匹が存在し、それらがすべて解き放たれてしまいます。天敵のいないこの恐ろしい蛾に、どうやって立ち向かうのか、ハラハラドキドキの連続です。蛾の形態もものすごいのですが、なぜか頭の中にはモスラが…^^;日本人の頭にはこれしか浮かばないのが悲しいです^^;

スレイク・モスを殲滅するために政府が呼び寄せた、次元を自在に行き来する大蜘蛛ウィーヴァーが実にユニークなキャラクターです。非常に残忍である一方、詩人のようでもあります。また、知能を持った機械の一群、コンストラクト・カウンシルがスレイク・モス退治に名乗りを挙げます。これらが味方なのか敵なのか分からないところにも引き込まれました。また、ヤガレクが元通り飛べるようになるのかも最後まで気になりました。

この物語で残念なことと言えばラストです。スレイク・モスに関わる部分はほんとに圧倒的で目が離せなくて、事態が収束したあとどんな展開が…と思っていたのですが…。このもの悲しさは何なのでしょう。600ページ以上ここまで読んできて、少しはカタルシスというものを感じさせてくれれば良かったのに…と思います。この啞然とする展開は、読んで味わってみて下さい。
世界観と細部まで作り込んだディテールは素晴らしく読む価値はあると思います。まだ翻訳されていない「バス=ラグ」のシリーズもあるそうです。次は明るい未来が待っているといいんですが。