フルーツ・ハンター  アダム・リース・ゴウルナー

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世界中の珍しい果物を紹介しながら、実際に食べた経験、歴史や文学上の果物や、果物の流通などを通してその魅力について語った本です。
この本には、著者を始め、まさに「果物に取り憑かれた」人々が出てきます。著者はジャーナリストで果樹栽培者ではありません。彼がなぜそれほど果物に魅入られているのか、読むとそれが伝わってきます。

この本に出てくる多くの熱帯果樹は聞いたこともない物が多く、それをネットで調べながら読んでいたので、なかなか読み進められませんでした。サポテ、ビグネイ、スリナムチェリー、パラミツなどなど…ちゃんと写真も載っていて、ネットの便利さに改めて感心です。ボルネオの果物タラップは今まで見たこともないような変わった果物でした。私が見たのはボルネオ在住の方のブログですが、大きなたわしのような果皮の下に、ラッキョウ型の柔らかくて白い果肉がたくさんつまっていて、その味はヤクルトに似ているそうです。
本の巻頭に写真が載っているジャボチカバは、真っ黒なボール状の実が幹に直接鈴なりになります。ジューシーでとってもおいしいそうです。

大手のスーパーなどに行くと、珍しい熱帯果物もけっこう売っていますね。アイスクリームに似ているというチェリモヤを一度食べてみたいのですが、著者が言うように、果物はなっているのをもいで食べる、というのが一番おいしい食べ方で、まだ熟していないのを収穫して追熟したのとでは雲泥の差があるでしょう。
シンガポールに旅行に行った時に屋台村に行く機会があり、そこで枝に鈴なりについたランブータン(毛むくじゃらのライチのような果物)を買ってちぎりながら食べたのですが、ほんとにおいしかったです^^あと、そこで初めてドラゴンフルーツ(ピタヤともいう、サボテンの実)を見ました。食べませんでしたが…。ドリアンもパック詰めで売ってましたが、食べたら帰りのバスに乗せてもらえなかったかも^^;

ドリアンについては本に面白いエピソードがいろいろ載っています。著者はアパートでドリアンの試食会を開いたのですが、その臭気をガス漏れと思ったアパートじゅうの人々は避難し、警察と電力会社の職員がやってきたとか。ドリアンも質の良いものだとそこまでは匂わないそうです。
著者はドリアンに魅入られたある男性に出会いますが、この人が作った俳句(に似たもの?)「ドリアンの自然の味や春の宵」には笑ってしまいました(笑)

ユニークなエピソード以上に多くのページがさかれているのが歴史上で果物が果たした役割や、文学に出てくる果物、果物の性的な一面についてです。よくこれだけの文献を集めたものだと感心します。まるで地球上のありとあらゆる出来事が果物につながっているようなそんな気さえしてきます。きっと著者の中では果物はそういう位置づけなのでしょう。
著者同様に果物に一生をかけている生産者や植物園経営者が多く紹介され、過去には珍しい果実の種を残すために、飢饉の時餓死を選んだ研究者までいたことが分かります。
また、ミラクルフルーツの例にありましたが、新しい果物を流通に乗せ、成功させることの難しさもよく分かりました。酸っぱい物を甘く感じさせる奇跡の果物、それが今にいたっても一般化していないのはこういう理由だったのですね~。
私も果物は大好きで、ほぼ毎日食べていますが、今食べている果物が原種から改良されてこういうおいしい物になり、それが流通して普通に買えるようになるまで、並々ならぬ人々の苦労があることを考えると、奥深いなと思います。

タイトルから、著者がジャングルの奥地に分け入って、自ら新種の果物を探すようなイメージがありましたが、訪ねるのは主に珍しい果物を育てている生産者のところが多かったので、それはちょっと残念でした。
ですが、多くの人々が果物にかける情熱が感じられる、読み応えのある本でした。