壊れやすいもの  ニール・ゲイマン

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幻想小説やホラー、SFや詩、ジャンル分け不能の作品まで、ゲイマンの才能の井戸をのぞき込むような短編集です。初ゲイマンだったのですが、「アナンシの血脈」「アメリカン・ゴッズ」等の長編の噂で思っていたのとはまた違う印象を持ちました。映画化された「コララインとボタンの魔女」もこの人が原作だったんですね。
全31編もあるので、印象に残った作品を挙げます。

「翠色の習作」
題名の印象通り、ホームズもののパロディに、ラヴクラフト世界を融合させた作品です。
ホームズの登場人物をよく知っていれば、ラストの展開にあっと驚かされるでしょう。

「十月の集まり」
月を司るものたちが集まって順に物語を語る、おとぎ話風の作品です。ちょっと毒が含まれているのが印象的です。ブラッドベリへの献辞があります。

「顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で」
アッシャー家のようないかにもゴシックホラーという館に住んでいる作家が、最後に満足した作品とは。環境と作品のギャップがおかしい作品です^^;

「苦いコーヒー」
他人になりすまして学会で発表した男の行く末は…。
発表するテーマもゾンビ系で変だし、いつの間にか異世界に迷い込んだような感覚が楽しめます。

「形見と宝」
暗黒街ものと思いきや、出てくる「シャヒナイ族の少年」はまさに「壊れやすいもの」の象徴のようです。

「食う者、食わせる者」
生かしながら食べるという発想がコワイです^^;食べた者が若返るのはお約束。

ゴリアテ
ゴリアテとは旧約聖書に登場する巨人の兵士の名前です。読んで「マトリックス」みたいだな~と思ったら、何と「マトリックス」のオフィシャルサイトに掲載された作品だそうです。つかの間の幸せを得た男の心情が切ないです。

パーティで女の子に話しかけるには
もてもての友人と乗り込んだパーティで出会った女の子達の話は、主人公には理解できないものばかり。謎の女の子達はどこから来たのか…。お気楽な友人を待ち受ける展開が痛快です。

「サン・バード」
美食家達が求めた究極の食材「サン・バード」の食べ方は?おいしそうな感じがするのですが、実際に食べるのは遠慮させて頂きます^^;

「谷間の王者」
アメリカン・ゴッズ」の後日譚だそうです。共通の登場人物らしいシャドウは北欧神話のベオウルフの立場になり、怪物グレンデルと戦うことになります。シャドウもグレンデルも人間に踊らされて気の毒です。

題名がやたらに長い作品(「顔なき奴隷~」よりもっと長いのも^^;)や、九編も収録されている詩など、ほんとにユニークな本だと思いました。
「翠色の習作」「顔なき奴隷~」「ゴリアテ」「パーティ~」「サン・バード」が特に好きな作品です。長編では実際どんな感じなのか、気になる作家さんになりました。