叫びと祈り  梓崎優

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海外の動向を分析する雑誌の取材のため世界中を巡っている斉木が、その国で出会う事件や謎を解明する物語です。

これはすごい作品ですね。新人さんとは思えないくらいです。その土地の空気まで感じられる美しい描写、その国であることを生かしたトリックと動機の意外さ。どれをとっても素晴らしいです。あちこちでこの本の評判を目にしていたのですが、納得です。
実際にその国に行ったかのような説得力のある内容でしたが、たぶん現地取材…ではないですよね。各国散らばりすぎだし^^;これだけの物語を紡ぎ出せる力量にただただ驚きです。

「砂漠を走る船の道」
サハラ砂漠を通り塩を運ぶキャラバンで殺人事件が起きます。
この動機には驚きました。まさに砂漠でしかあり得ない動機です。その国でそういう立場に立たされてみなければ、この動機の重さは本当には分からないに違いありません。
メチャボには見事に騙されました^^;巧いですね~これ。

白い巨人
スペインの村にある風車から消えた兵士の伝説と、同様に風車から消えた恋人が重なります。
消えた兵士についてあれこれと三人が智恵を巡らせるところが楽しいです。サクラが消えた恋人について恐ろしい結末にたどり着くところにはギョッと^^;でも最後にはほのぼの終わってひと安心です^^

「凍れるルーシー」
ロシアの女子修道院に、審問官と共に訪れた斉木は聖人と呼ばれる女性に会います。
これもまた信じられないような動機です。聖人信仰というロシア正教の特徴をふまえたものになっています。宗教というのはほどほどが一番ですね。入り込むとろくなことはないように思います^^;それにしてもこのラストは意外でしたね。

「叫び」
ブラジルのアマゾンの村を訪れた斉木たちを待っていたのは猛威をふるうエボラ出血熱でした。
「ホット・ゾーン」原作も映画も見ましたが、怖かったですね~。あれも猿が原因でした。村の中で起きる謎の殺人、そういう動機だったとは…。村の部族の特異性が如実に出た内容でした。ラストは必然なのですがやはり怖かったです。

「祈り」
冬の中に閉じ込められていると感じる男の所に友人が訪ねてきて、クイズを出したり、物語を聞かせたりするのですが…。
男はたぶんあの人だと思って読んでいましたが、置かれている立場には気づきませんでした。友人が名字で出てきたわけにも感心させられました。
そして今までの物語がはっきりと大きな意味を持っていることが分かります。また、「祈り」というタイトルに込められた意味も深いです。ラストの収束のさせ方も美しく、これからの希望ある展開を予想させるところが良かったです。

ほんとに読んで良かったと思う作品でした^^自分の中では早くも今年のベスト10入りかなと思ってます。一般的にもそうなるでしょうけど。