エデン  近藤史恵

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天地明察」と前後して予約し、待ち人数も同じだったのですが、こちらの方が先に回ってきました。
自転車ロードレースの1シーンをとらえたこの表紙、「サクリファイス」を読む前の自分だったらまず手に取らなかったでしょう。それほど前作に魅了され、全く知らなかったロードレースの世界に関心をもてるようになりました。本作は前作と違い、ミステリというよりスポーツ小説としての度合いが高くなっています。

前作と同じ主人公の白石誓(ちかう)はフランスに渡り、パート・ピカルディという地元チームに入っていますが、何とピカルディのスポンサーが降りることに。チーム解散の危機となり、そのためにチーム内にも不穏な雰囲気が…。

舞台のほとんどはツール・ド・フランスという、私でも前から知っているほど有名なロードレースの大会です。三週間もかけてフランスを一周するレースだそうで、想像しただけで気が遠くなりそうです^^;チカ(誓)は大会唯一の日本人参加者です。
ピカルディのエース、ミッコは総合優勝を狙えるほどの優秀な選手です。普通ならチームは総力を挙げてミッコをサポートするはずですが、新たなスポンサーを見つけるために監督がとった作戦は、チカには納得できないものでした。今大会の注目選手である、他チームのニコラという新人選手をアシストするように言われたのです。理由は、ニコラが地元フランスの久々のスター選手になり得そうだからです。フランスの選手が活躍すればスポンサーが競技に注目します。ミッコは外国人なので、監督は自チームの選手より他チームの選手を選んだのです。

これが自転車ロードレースという競技のユニークなところです。他の競技なら、相談して他のチームを勝たせるなんて八百長でしかありませんが、チーム同士が手を組んでどちらかのエースを勝たせたり、他のチームを蹴落とすために協力したりといったことは普通に行われているようです。ミッコと他チームの選手がニコラを追い落とすために共闘するところはなかなかの名場面です。
自チームの中でも、エースの空気抵抗を減らしたり、エースのため集団の速さを調整したりというアシストという役目があり、チカはミッコのアシストをしています。何もかもエースのため、という戦い方は他の競技ではあり得ないですね。
いまだに実際のレースの様子は見たことがないのですが、そういう選手やチーム同士の駆け引きを見てみたい気がします。

ニコラは童顔で人当たりも良く、チカも好感を持ちます。しかし、彼を巡って不穏な噂が流れ、選手達の間にも動揺が走ります。
ニコラが続けて獲得した、ステージ優勝者に与えられるマイヨ・ジョーヌという黄色のジャージ、そして新人賞の白のジャージであるマイヨ・ブランは、ロードレーサーにとっては最高の栄誉だそうでこれを巡る争いは印象的です。裏表紙に写真が出ています。サイズはいろいろあるのだろうか?とか考えてしまいました^^;チカが獲得した山岳賞のジャージ、マイヨ・グランペールは白地に赤の水玉だそうですが、ネットで写真を見てびっくり。これほど水玉が大きかったとは…^^;確かに目立つでしょうね。

要所要所で、「サクリファイス」のある重要人物が、名前こそ出てきませんがチカの脳裏に浮かんだり、彼について語られたりします。「呪い」というのも無理もないですね。ほんとに重い物を背負わされてると思います。彼のことがあるからこそ、チカは何が何でも海外に残り、活躍する必要があるのですから。でも、それは同時にチカの支えでもあるのだなと思います。

過酷であるのに、選手にとっては楽園でもあるツール・ド・フランス。レース場面を読んでいると、それが真実なのだと感じさせられます。
前作で受けたような衝撃はありませんでしたが、自転車ロードレースの奥深さをより感じることができた作品でした。