ベンハムの独楽  小島達矢

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新潮エンターテインメント大賞を受賞した短編集で、デビュー作だそうです。「本の雑誌」で、「叫びと祈り」と並んで絶賛されていたので、図書館で探すと見つかりました。
内容は、ミステリありSFあり青春ものありとバラエティに富んでいます。作品同士にリンクがあり、前の作品で納得できなかった箇所について、あとの作品でフォローされていたり、前の登場人物が顔を出したりしています。
「ベンハムの独楽」とは白黒の模様しかないのに、回すとさまざまな色が見える不思議な独楽のことです。ラストの話にも出てきますが、この短編集全体のイメージでもありますね。

「アニュージアル・ジェミニ
双子でありながら精神は1つしかない早紀と真紀は、2つの体を行き来していましたが、そのうちに早紀は真紀の体を疎ましく思うようになります。
読んで、これは乙一だなと思いました。「ヨーコとカザリ」という短編によく似ています。早紀のまばたきでしか入れ替わりができない、というところが肝心です。

「スモール・プレシェンス」
5分後のことを予知できるという同級生の言葉を、主人公ははじめは信じなかったのですが…。
こういう展開になるとは「予知」できなかったですね^^;驚きました。

「チョコレートチップ・シースター」
傘を置き忘れた美央は、傘についての思い出と、祖母の思い出をオーバーラップさせます。題名は、茶色い斑点のあるヒトデの名前です。それがどう関わって来るのかがユニークです。

「ストロベリー・ドリームズ」
幼稚園児のみいちゃんは、いつもイチゴのキャンディーをポケットに入れていて、手をポケットにつっこんでいます。
かわいらしい題名とはうらはらな話です。背筋がぞくっと…>< 医者が気づかなかったのはおかしいと思いましたが、次の話でフォローされていました。でもやっぱり幼稚園の先生が気づかないのもおかしいですね。

「ザ・マリッジ・オヴ・ピエレット」
コンビニで立てこもり事件が発生します。犯人は特に要求もせず、次々に人質を殺していきます。
背景にあった事件や共犯者については驚きでしたが、立てこもり犯の狙いは途中で分かりました。時刻についての描写は若干弱いですが、よく考えられたストーリーだと思いました。

「スペース・アクアリウム
フレドリック・ブラウン風または星新一風の、オチがあるSFです。ちょっと箸休め、という感じですね。

「ピーチ・フレーバー」
文字を読むと味を感じ、満腹になる不思議な能力を手に入れたという琢磨の能力を絵実は確かめようとします。
エンデの「モモ」が桃の味、というのを最初に思いついて、それから発展して行ったんでしょうね^^; 琢磨の能力は本物なのか、妄想なのか…。でも、他の話に出てくるある登場人物の内面を見抜いてるところを見ると…?

「コットン・キャンディー」
男2人と女1人の大学生活を描いた青春物です。それぞれのエピソードがいかにも大学生らしくて、自分の大学生活と重ね合わせたりして心地よく心に残ります。大学での講義の内容と、靴紐のエピソードが特に印象的です。爽やかな読後感で、この本の中で一番好きな物語です。チュッパチャプスのロゴをサルバドール・ダリが考えたとは知りませんでした。

「クレイジー・タクシー」
新潟行きのタクシーに相乗りしてきた男は、突然拳銃を出してタクシーを乗っ取ります。彼の思惑とは?
ラストにまた、今までの話とのリンクが出てきて驚かされます。

リンクはあるのですが、連作短編集とは言えないですね。それぞれの作品のテイストが違いすぎるので、やや散漫な印象も受けます。でも、一つ一つの作品のアイディアは優れていると感じたし、荒削りながらこれから楽しみな作家さんだと思いました^^