虫目で歩けば  鈴木海花

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虫好きの女性による、虫好きのための本です。おもに東京都内を観察して見つけた虫の写真とエッセイが載っています。

小さい頃から図鑑を愛読していた私の、一番のお気に入りは昆虫図鑑でした。近所の男子とも、よく虫取りに行っていたものです。母はふざけて私を「虫愛づる姫君」と呼んでいました。「虫愛づる姫君」とは、平安時代、最古の短編集である「堤中納言物語」の中の一編です。この「虫目で歩けば」にも紹介されていますが、この姫君は幼虫をとってきて蝶になるまでを観察するのが大好きな、当時では間違いなく変わり者と呼ばれる姫君です。「いろいろな事を観察して、どうなるのか見届けるから、その摂理が分かるのよ。人の噂を気にするなんて下らない。毛虫が蝶になるんだから(すごいでしょ!)」と、実に探求心旺盛です。今だったら立派な昆虫学者になっていたかも。

作者もそんな虫愛づる姫君の一人です。娘さんと一緒に、公園や野山を歩いて自然を観察し、その中で身近な虫を見つけています。読んでみると、作者が一番興味を持っているのはカメムシらしいです。娘さんはクモ。カメムシは確かに種類も多く、模様もさまざまで、しかもその辺に普通にいる虫です。優しく扱えば臭くないそうですが、私の地元で多いのはただの薄茶色一色で、時期になると山のように建物のあちこちに出没し、臭いをまき散らす困った虫という印象が強いです。だから、飼ってみようとか全く思わないです^^;でも、作者が飼っているアカスジキンカメムシというのは赤と緑の金属光沢が美しく、しかも幼虫には白型と赤型の二種類があるという変わった虫です。こういうのなら、観察してみたら楽しいかもですね。

この本の中には出てきませんが玉虫という虫をご存じですか?種類はいろいろありますが、その中の「ヤマトタマムシ」は法隆寺の玉虫厨子にも使われている、緑の地に紫のラインが入った金属光沢が美しい虫です。平成になって玉虫厨子が再現され、2万匹以上の玉虫の羽が使われたそうです。私が思ったのは玉虫は絶滅しないのかということでした。私が小さい頃は町なかでも玉虫が飛ぶ姿を見ることができました。最後に見たのは高校生の時で、塀の上あたりを、2匹がキラキラと輝きながらじゃれ合うようにして飛んでいくのを見ました。こんな田舎でも姿を見なくなったくらいです。玉虫はまだどこかで元気にしているのでしょうか。心配です。

作者はジョロウグモの卵をとってきて孵化させ、しかもそれを部屋で放し飼いにして移動する様子を観察しています。これは虫好きでもけっこう勇気のある飼い方なのでは…^^;そのうち育ってきたクモの子たちは、糸を出して窓から一匹ずつ風に乗って飛んでいってしまいます。親離れした子供を見送るような気持ちでいる作者にほのぼのします。

面白いと思ったのは「チーズダニ」です。チーズを発酵させるのに使う特殊なダニで、チーズの表面に住みついています。日本でもこのミモレットというチーズは買えるそうです。状態が良ければダニも生きているまま買えるとか…^^;食べる時にはもちろん、固い外皮と一緒に削って取ってしまうのでダニは食べません。作者はダニにチーズをやりながら冷蔵庫で飼っているそうで、すごいな~と思いました。

それにしても、何にでも興味を持って研究している人はいるもので、「日本ハエトリグモ研究センター」というのもあるのだとか。ハエトリグモだけで研究所まで作ってしまうというのが驚きです。
ネットで作者のブログも見ることができますが、虫好きの世界は実に深いですね。今の私は昔のように虫をとって来て飼ったりはしていませんが、久しぶりに持っている他の昆虫本や自然観察の本も手に取りたくなりました。