たったひとつの冴えたやりかた  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

イメージ 1

夏のSF祭り第三弾は初のティプトリーです。感涙本として有名なこの作品をやっと読むことができました。
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアは男性名ですが女性作家です。スタージョンが、「ジェイムズ・ティプトリー・Jrを例外とすれば、最近のSF作家でこれはと思うのは、女性作家ばかりだ」とSF大会でスピーチしていたそうです^^;それぐらい注目を集めていた作家だったんですね。
この「たったひとつの冴えたやりかた」は、彼女が女性であることを公にしてからの本です。この本がローカス賞を取った時、彼女は70才!作家デビューも53才ですから、新しい人生のスタートを切るのに年は関係ないなと思いました。
連作中編集で、図書館に人間についての昔の資料を探しに来た異星人に、司書がこれらの物語を順に貸し出すという体裁になっています。
中にもふんだんに入ってる川原由美子さんのイラストは雰囲気に合ってましたが、少女趣味なので人が多いところで読むのは周りが気になるかも…^^;

たったひとつの冴えたやりかた
両親に内緒で宇宙の冒険へと旅だった少女コーティは、頭の中にエイリアンが住みついてしまったことを知ります。コーティはその脳寄生体シロベーンと心を通わせますが、シロベーンには秘密がありました。
シロベーンの種族イーアの生態の不思議さがこの物語の中で大きな意味を持っています。
先に行方不明になってしまった宇宙船を自分が見つけようとわくわくする気持ちや、シロベーンとの温かな交流、二人で二種族の未来を語り合う楽しそうな様子など、二人の気持ちに寄り添わずにはいられません。だからこそ、最後の彼女の15才とは思えない決断が胸を打ちます。彼女が録音した内容を基地で聞いている人々の様子が挟まれる構成も良かったです。

「グッドナイト、スイートハーツ」
宇宙船の救助を仕事にしているレイブンは、救助に向かった船の中で昔の恋人に出会います。しかしその船は暗黒界からの「宙賊」に襲われてしまいます。そして、宙賊が乗っていた船の中には驚くべき人物が。
「スイートハート」でなく、複数形なのがみそですね。宇宙服が足りないことに気づいた時、彼女たちのうちどちらを助けるべきか、また、自由と愛のどちらを選ぶべきかと逡巡するレイブンの究極の選択が見所です。

「衝突」
ジーロと呼ばれるカンガルーに似た異星人とのファーストコンタクトを描いた作品です。ジーロはジューマノールと呼ばれる異星人に同盟種族を襲撃され、全面戦争に入ろうとしているところでした。しかしジューマノールとは、暗黒界に住むヒューマンそのものだったのです。姿形は同じでも、ジューマノールと違って友好的な気持ちを持っていることを、ジーロに伝えることができるのか、という異種間での意思の疎通がテーマです。
ジーロのジラノイが人間と意思を通じたいと言語を学習するところ、人間側の船長のアッシュが必死でジーロに気持ちを伝えようとするところが心に残ります。

どれも読み応えがありましたが、やはりタイトル作が特に印象的でした。
始めの図書館のシーンで「輝くもの天より墜ち」という物語のことが語られますが、これは同じ舞台のティプトリーの別作品です。次はこの作品か、「故郷から10000光年」「愛はさだめ、さだめは死」などの短編集を読んでみたいです。

もうすぐ夏も終わりますが、祭りと言うほど読めなかったですね^^;もう一冊最後にSF行けるでしょうか…それとも秋のSF祭りに続く?(笑)