十三人の刺客  監督 三池崇史

将軍の弟である史上最悪の暴君、松平斉韶を暗殺するため、島田新左衛門(役所広司)の下に集結した13人の刺客を描いた作品です。

地元の映画館に来なかったため、一時間かけて他の市のワーナーマイカルに行ってきました。ネットで予約したのですが、この日はお客様感謝デーということで何と千円でした。にも関わらず劇場は20人程度…^^;終わってから見回すと、周りはお年寄りばかりでした(笑)時代劇を映画館で見たのは初めてでした。なぜわざわざ見に行ったかと言うと、吾郎ちゃんの演技の評判がすごかったからです。

吾郎ちゃんが演じたのは暴君斉韶その人です。吾郎ちゃんの殿様と言えばスマスマの殿リーマン。同じバカ殿でも、斉韶は常軌を逸しています。いや~ほんとに残虐非道でした。庶民を無意味に陵辱、殺戮しながら無表情。何にも感じていないのだな~と。というか、つまんなそうにやってるんですよね。毎日が退屈で物足りないのを、そういうことで満たそうとしているのですが、やっぱり満たされない虚無感に満ちた心情が伝わってきました。

13人の刺客たちで良かったのはまず当然ながら主演の役所広司さん。演技に気負いがなく自然に見えるのがこの人の良さですね。山田孝之さんはトーク番組で見るとぼそぼそとしゃべる地味な青年(失礼)という感じなのですが、演技をしていると栄えますね~。恋人(妻?)の元を去る時に言う台詞がかっこいい! そして伊勢谷友介さん。武士ではない、偶然加わる山の民という面白いポジションでした。「龍馬伝」でも格好良すぎる高杉晋作を好演されてますが、身のこなしのせいでしょうか、とにかく目を引きます。岸部一徳さんとの×××シーンは反則でしょう(笑)劇場でも笑いが起きてました^^;
伊原剛志さんはメンバーの中でナンバー3の位置にある重要な役柄でしたが、袋小路に追い詰められた斉韶一行を、地面に刺した刀を次々に持ち替えながら斬っていくシーンが見応えありました。
松方弘樹さんは、一人だけ、「時代劇の大スター」という雰囲気でちょっと浮いてました^^;

斉韶の忠臣鬼頭を演じていた市村正親さんはさすが、劇団四季の存在感でした。斉韶の所行を良しとは思っていないのですが、主君第一を信条とする彼は斉韶を諫めることができず、主君を守ることだけを念頭に置いて、友人であった島田と相対します。その悲愴なまでの決意は胸に迫ります。島田との一騎打ちのシーンは緊迫感溢れているのですが、一番大事なシーンでハエが顔にとまってしまったのは残念でした…。撮り直しが効かないシーンだったんでしょうね。

島田の「斬って斬って、斬りまくれ!」という言葉通り、とにかく斬り合いのシーンが長いです。13人対200人以上なので、すぐ終わるわけにはいかないでしょうが…。せっかくさまざまな仕掛けを宿場にして地の利を得ていたのに、それを十分に生かさないまま肉弾戦に行ってしまった気がします。矢だって爆弾だってまだあったのに、「小細工はこれまで!」とか、見切りが早すぎるでしょう^^;

やや冗長に感じた斬り合いのシーンを彩ってくれたのが先ほど挙げた伊原さんのシーンと、吾郎ちゃんの名台詞の数々と表情です。
逃げる橋が爆破されてから、無表情が笑顔に…。やっと面白いことを見つけたという子供のようなわくわくした表情です。次々と討ち死にする家来達を目前に、「老中になった暁には、再び戦国の世を現そうぞ」(たぶんこんな台詞)周りの家来、みんな引いてます…漫画にしたら顔に縦線みたいな^^;
島田と鬼頭の一騎打ちが始まろうとしている時に「一騎打ちとは風流よのう…」残虐なのに殿様らしく浮世離れして品があり、吾郎ちゃんの持つ雰囲気が見事に演技に生かされていました。白い着物がほとんど汚れずにいた斉韶が、最後には表情も分からないほど泥まみれに…。やっと生きることの楽しさを知り、最期に感謝の言葉を口にする斉韶の姿は無様でもありましたが切なくもありました。まさに体当たりの演技だったと思います。役者稲垣吾郎を堪能させてもらいました。

2時間半近い作品でしたが、眠くなることもなく最後まで楽しむことができました。PG12なので誰にでもおすすめできる作品ではありませんが、役者さんの名演技をぜひ見てほしいと思います。