マリアビートル  伊坂幸太郎

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東北新幹線「はやて」の中で繰り広げられる、殺し屋同士のトランクの争奪戦と、狡猾な中学生「王子」と殺し屋の攻防を描いた物語です。
まず帯にぺたぺた押された判子を見て嬉しくなりました。これは「グラスホッパー」でも章のタイトル代わりに押されていたあれですね。新しく出てくる殺し屋コンビ蜜柑と檸檬の章が、「果物」と一括りにされているのが洒落てます。

伊坂さんの作品に出てくる殺し屋はどうしてこう魅力的なのでしょう。蜜柑と檸檬のキャラ造形は特に秀逸です。
蜜柑はいつも本を持ち歩いている読書家で、日頃は物静かで無駄なことはしませんが、いざ怒ると檸檬以上に恐ろしいタイプです。怒りが募ってくると本の文章を引用し始めるというのがいいですね。
檸檬は「機関車トーマス」の大ファンで、何かと言えばトーマスのキャラクターを例えに出して来ます。伊坂さんが自分のお子さんには「トーマス」の本を、と前にアンケートに答えておられたので、お子さんと一緒にトーマスを楽しんでおられるのでしょう。仕事上の相棒でしかない蜜柑と檸檬に、思わぬ心のつながりがあることを知らされる場面には胸を衝かれます。

天道虫こと七尾は、普段はおどおどとして頼りなく、不運の神様に魅入られたごとく、やることなすこと裏目に出る男です。ただ新幹線からトランクを盗んで降りるだけの仕事が、次々に降りかかる不運によって、遂行できなくなります。この七尾の不運が新幹線の中の大騒動の一端を担っているのは間違いありません^^;でも、この不運が思わぬ展開を呼ぶのですから、意外と彼の不運は実は大きな幸運を呼ぶための布石なのかも知れません。
それに、後半から七尾へのイメージがかなり変わってきます。このあたりも見所です。タイトルが彼の名前につながることから、やはり主役は彼なんでしょうね。
グラスホッパー」でおなじみの殺し屋達も実際に登場したり、名前が出てきたりしています。さらに驚きの登場人物も…?

そして、とにかく「嫌なやつ」としか言いようがない「王子」。人の弱点をつかみ、それを利用することで相手を支配し、さらに苦しむところを見て楽しもうとする最低の人間です。自分が子供であることを最大限に利用する狡猾な王子に大人達が翻弄されるのは見ていて歯痒くなります。いつかこの王子に鉄槌が下されることを願って読み進めてしまいます。王子が繰り返す「なぜ人を殺してはいけないの?」という質問に、登場人物達がそれぞれの立場で答えている内容に考えさせられました。

行ったり来たりするトランクを介在して、さまざまな人間の思惑が交錯します。新幹線という閉ざされた空間で、これだけのドラマを作り上げる伊坂さんの巧さを改めて感じました。いつもながら、伏線の回収と鮮やかなラストはお見事です^^
今回は新幹線とトーマスという乗り物づくしでした。乗り物には詳しくないので、新幹線の見取り図とトーマスの登場人物相関図がほしくなりました^^;でも、トーマスについては、檸檬にトーマスの話を聞かされる登場人物の気持ちになって読むのもいいかも知れませんね。

伊坂さんが「もうエンタメは書けないのではないか」と思われるのが悔しくてエンタメに徹した作品だそうですが、もちろん極上のエンタメ作品でした^^




登場人物がトーマスを例えに出してくるのですね、なるほど~。トーマスが出てくると聞いていたのですが、どんな風に?と気になっていました。無駄にトーマスに詳しいので張り切っています(笑)。エンタメに徹した作品なんですね、楽しみです^^♪ 削除

2010/10/12(火) 午前 11:36 lime 返信する
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蜜柑と檸檬は名コンビでしたね!彼らの続編を読みたいのですが・・・
密室の中で繰り広げられる展開も楽しめましたが、人間の心理を衝く会話には考えさせるものがありましたね。王子の質問には困るだろうけど、その前に一発拳固をかましてやりたいです(笑)
伊坂さんがまた面白くなってきたのはいいことですね。 削除

2010/10/12(火) 午後 4:58 [ テラ ] 返信する
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>limeさん
かなりトーマスのマニアックな知識が出てきますよ~^^私はほとんど知りませんでしたが、これでかなりトーマス通になったかもです(笑)男のお子さんがいらっしゃるなら、たいていトーマスには詳しくなりそうですね。 削除

2010/10/12(火) 午後 6:56 ねこりん 返信する
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>テラさん
伊坂さんは魅力的なキャラを惜しげもなく…ということがよくありますね^^;「蝉」が出てくるといいなと思っていたのですが、よく考えたら「グラスホッパー」で彼の運命は決まっていたんでした。でも、「サクリファイス」のサブストーリーの例もあるし、また彼らの活躍が読めることがあるかも知れませんね。
王子への鉄拳、私が許しますので一発どうぞ(笑) 削除

2010/10/12(火) 午後 8:00 ねこりん 返信する
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七尾が堺雅人さんをイメージしたということだと雑誌に書いていると思いましたが堺雅人さんを見て七尾のアナザーストーリーを思いついたというものでした。

僕は甥っ子がいるのでトーマスのことは少し分かりました^^
一番キーになったディーゼルは知りませんでしたけどね。

七尾が残ったのでまた続編を書いて欲しいですね~ 削除

2010/10/29(金) 午前 0:33 [ アル・アル ] 返信する
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>アル・アルさん
なるほど、そうだったんですか。でも七尾と堺雅人さんのイメージが伊坂さんの中で結びついたということなんでしょうね。
トーマスは、知ってたのはトーマスとパーシーだけでした^^;
七尾の続編、ありそうな気がしますね^^ 削除

2010/10/29(金) 午後 8:47 ねこりん 返信する
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んん?『さらに驚きの登場人物』って誰をさしているんでしょうか・・・??まぁ、前作を覚えていない私には誰だと言われてもピンと来ない気がしますが^^;そっかー、↑のお二人のコメントを読んで、七尾=堺雅人さんのイメージだと知りました。読む前に知ってたら絶対堺さんのイメージで読んでいたなぁ。良かったのか、悪かったのか(苦笑)。王子のキャラ立ちが凄かったですね。ほんとに「死ねばいいのに」ってヤツのシーンの度に思ってましたよ(苦笑)。 削除

2010/10/31(日) 午前 1:00 べる 返信する
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>べるさん
殺し屋以外の登場人物のことです。よくある名前なので、最初はあの人だとはぴんと来ませんでした^^;
堺さんは大好きなのですが、七尾とはちょっとイメージ違うような気もします。特にアクションには向いてないような…^^;
京極さんもびっくりの、べるさんの憎悪が…(笑) 削除

2010/10/31(日) 午後 2:32 ねこりん 返信する
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おっしゃる通り、果物コンビの心のつながりが分かる場面にはグッときますね。普段は全くそんなそぶりを見せないのにお互い認め合っているところがいいですね。ほんとに惜しいことをしました~。また彼らに会いたいですね。トーマスの小ネタは大体分かりましたがほんとにマニアックなものもあってちょっとびっくりしつつも分からないと悔しかったです(笑)。TBさせて下さいませ。 削除

2010/11/12(金) 午後 0:19 lime 返信する
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>limeさん
トーマスの小ネタが分かったとはさすがですね^^私は、分からないなりに楽しんじゃいましたが^^;
果物コンビ、これだけで終わらせるのは絶対もったいないですよね。過去の活躍?も知りたいし、ぜひ再登場してほしいものです。 削除

2010/11/12(金) 午後 7:57 ねこりん 返信する
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久しぶりに、第一期作品を髣髴とさせる作品に出会え、とても幸せに感じています。
やっぱり、伊坂作品は繋がってくれなくっちゃ、ラストは大団円になってくれなくっちゃって、強く思いました(*^^*)
トラバさせてくださいね♪ 削除

2010/11/24(水) 午後 3:10 金平糖 返信する
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金平糖さん
実に伊坂さんらしい作品でしたね。「グラスホッパー」よりさらにエンタメ度がUPしてる気がしました。ラストは、王子のことをもっとはっきりさせてほしかったような気もしますが、まずまず気持ちの良い終わり方でした^^ 削除

2010/11/25(木) 午後 8:27 ねこりん 返信する
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「どうして人を殺してはいけないの?」の問いに答えた鈴木先生の考えが凄いなと思いました。聞かれたらコレ言ってやろうと思いましたもん(笑)。七尾が主役なんですね、やっぱり。あいつの不運っぷりは最高でした^^; 削除

2011/1/22(土) 午前 1:35 ゆきあや 返信する
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>ゆきあやさん
その問いに、登場人物に合わせて何通りもの答えを考えた伊坂さんはすごいですよね。七尾の不運は、-と-で+になるみたいに、最終的には幸運に転じるのかも知れませんね。 削除

2011/1/22(土) 午後 8:30 ねこりん 返信する