悪の教典 貴志祐介
晨光学園町田高校の英語教師である蓮実聖司は、生徒に絶大な人気を誇る優秀な教師です。しかし彼には悪魔としか思えない裏の顔がありました。そして前代未聞の惨劇が幕を開けます。
さすが読ませますね、貴志さん。2冊で800ページ以上の厚さを全く感じさせません。同じ学校を舞台にした綾辻さんの「Another」に比べ、学校についての突っ込みどころは少なかったです。仕事の内容、行事の様子、生徒指導の様子など、よく取材されているなと思いました。もちろん学校にこんな変な教師ばっかり集まっているのは現実離れしていますが…。淫行教師だけでも4人ってあり得ないですよね^^;
蓮実は、ルックスも良く、弁舌爽やか、授業は生徒を飽きさせず学力をつける指導力があります。また生徒指導の手腕も優れているため、教師からも生徒からも信頼されています。
上巻前半は彼の優秀さを示す場面や、「ハスミン」と呼ばれて生徒に慕われる様子が多く、読者にも蓮実が魅力的に思えるように描かれています。しかし、目的のためには手段を選ばない蓮実の恐ろしさが、少しずつ分かり始めます。
ある生徒が蓮実に対して疑問を発したように、これほど力量があれば、殺人などしなくてもいくらでも成功することができると私も思いました。疑問に対する蓮実の答えは「やれると確信さえできれば、最後までやりきることができるから」でした。つまり、普通の人なら躊躇してできないことでも、自分ならできるという圧倒的な自信に裏打ちされているんですね。自分の優秀さを確かめるための殺人という感じでしょうか。
快楽殺人者とは違い、自分の邪魔になる者を排除するという明確な目的を持っています。人の命の重さについては一顧だにせず、単に邪魔だからというただそれだけです。
それまでどれだけ親しくしていた人間だろうと関係ないのですが、ある人を手にかけようとした時に、彼が躊躇したことがありました。怪物にしか見えない蓮実が、唯一人間的な面を見せる場面です。こういう所を描くというのも、読者を蓮実に心理的に近づけようという貴志さんの目論見なのでしょうか。
それにしても、両親からも愛情を受けていたというのに、なぜこんな人間が育ってしまったのでしょうね。それが怪物の怪物たる所以なのでしょうが…。
それにしても、両親からも愛情を受けていたというのに、なぜこんな人間が育ってしまったのでしょうね。それが怪物の怪物たる所以なのでしょうが…。
下巻では「バトル・ロワイヤル」もびっくりの大量殺戮が行われます。一つの殺人を隠蔽するためにまた次の殺人、そして最後には皆殺しというこの論理には唖然としてしまいます。
凶器の準備をしながら「地球にやさしい」とかエコを考えていたり、生徒を無惨に殺害した後に英語の駄洒落を考えていたりなど、殺人という事の重大さに全くそぐわない蓮実の思考が非人間さを感じさせます。
けなげにも、死の瞬間まで蓮実を信じようとする生徒たち。結局死んだ生徒たちも、助かった生徒たちも、なぜ自分たちが殺されようとしなければならなかったのか知らないままです。もし聞いたとしても、とても信じられないでしょうね。
生き残る生徒については予想がついてしまうし、ミステリ的な驚きは少ないですが、圧倒的な筆力で、とにかく最後までぐいぐい惹きつけられます。それにしてもこの終わり方…続編あったりして?
生き残る生徒については予想がついてしまうし、ミステリ的な驚きは少ないですが、圧倒的な筆力で、とにかく最後までぐいぐい惹きつけられます。それにしてもこの終わり方…続編あったりして?
特設サイトで2年4組のクラス名簿や、教員名簿、校舎の見取り図が見られます。さらに蓮実が口笛で吹く「モリタート」が聴けます。妙な軽快さが不気味ですよ~。
蓮実ツイッターは悪ノリという感じですが、ハスミン信者がこれほど多いのかとちょっと怖くなりますね^^;
蓮実ツイッターは悪ノリという感じですが、ハスミン信者がこれほど多いのかとちょっと怖くなりますね^^;
下巻はもうちょっとひねって欲しかったですよね。でも、伊坂さんの『マリアビートル』読んで王子の凶悪さに触れた後だと、なんだかハスミンに妙に親近感が湧いてしまう自分がいるのでした(苦笑)。蓮実ツイッター気になるな~(笑)。
カラスとか伏線らしいものがありつつ、あまり関係なかったのが意外でした。面白かったけどw