扉守  光原百合

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瀬戸内の町「潮ノ道」で起こる不思議な出来事を描いたファンタジーです。雰囲気のある素敵な装画に惹かれて手に取りました。
登場人物の話す方言で広島が舞台であることは分かりましたが、地名に振り仮名がなかったので、「ちょうのどう」なのか「しおのみち」なのか迷いました。「しおのみち」と読んでみた時点で、尾道だと気づきなさいって^^;

「帰去来の井戸」
気心の知れた常連が集まる飲み屋「雁木亭」の中には、その水を飲んだ者は必ず戻ってくるという言い伝えの、古い井戸がありました。常連の中で潮ノ道を去ることになった浜中も、この水を飲んで行くのですが…。
小路に入ってくる舟のイメージと、乗っている人物の様子がしみじみと心に残ります。単なる常連の一人だと思われた了斎が、この後重要なキャラとして活躍します。

「天の音、地の声」
怪異が起こることで有名な古い洋館で演劇を行うことになります。劇団のメンバーは怪異の理由に気づいているようです。劇を演じながら、「ぱたぱたさん」を癒していくところがいいですね。家に残り続けた彼の心情が、劇を通じて伝わってきます。

「扉守」
友達の言うままだった雪乃は、自分に取り憑いたもののせいで急にはっきりと自己主張できるようになります。雑貨屋兼喫茶「セルベル」の店主と了斎は雪乃の異変に気づきます。
ぶっきらぼうだけどすごい力を秘めた店主のキャラがいいです。ラストも最初のエピソードがつながって気持ちよく読み終われます。

「桜絵師」
絵の中に入り込んでしまった少女が見たものは…?
桜の景色の美しさと、少女が見せられたものの対比が印象的です。了斎と行雲の掛け合いが楽しいです。

「写想家」
カメラで人の想いを写し取ってしまう写想家が撮し出したものは。
私のイメージでは菊川はミッチーでした(笑)

「旅の編み人」
想いのこもった物をほどいて、新たに編み直すことを仕事にしている女性には不思議な力がありました。
編み物といえば、優しくおっとりとした雰囲気をもってそうなのに、全然逆なのが面白いです。「面倒なことは苦手」って、編み物って面倒だと思いますけど^^;

「ピアニシモより小さな祈り」
どうしても鳴らないピアノと、その持ち主の女性、ピアノの想いを聞くことができるピアニストと調律師の物語です。ピアニストの零のイメージは「ピアノの森」のカイでした。映画の少年時代しか見てないのですが^^;でも、ピアノから奏でられる音の描写は、映画で見た、音と共に広がる美しい風景を思わせました。

不思議な中にもほのぼのとした温かみがあって、ホッとさせられるような物語です。尾道って映画の舞台にもよく使われたように思いますが、あれは大林監督の出身地だからでしょうか。でも人を惹きつける魅力的な場所のような気がしてなりません。実は尾道はGWに行きましたが、世羅町に行くための通り道だったので、いつかきちんと訪れてみたいものです^^