平ら山を越えて  テリー・ビッスン

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奇想コレクション」のビッスンの2冊目です。「ふたりジャネット」の方は「万能中国人」のシリーズを始めコミカルな話が多いのですが、こちらは社会問題等深刻なテーマも扱っています。

「平ら山を越えて」
名前とは裏腹に、地面の隆起でとてつもなく高くなってしまった山を越える運転手とヒッチハイクの少年の物語。気圧の問題や、変な生き物との攻防など短い中にいろんなアイディアが詰め込まれています。

「ジョージ」
翼を持って生まれた少年と、翼を切り落とすように説得する人々、悩む父親の姿が描かれています。翼を障害ととらえる人々と子供のありのままの良さを見つめている母親が対照的です。

「ちょっとだけちがう故郷」
古い競走場で、空想遊びで飛行機を発見した少年達は、本当にその飛行機で旅立つことになります。旅立った先で見つけた町は、自分たちの故郷とそっくりでしたがほんの少し違うものでした。
これは切ないです;;ストーリーは違いますが、ジョー・ヒルの「20世紀の幽霊たち」の一作「ポップ・アート」を思い出しました。新しい町で少年達が見つける物事が大きな意味をもつ展開がいいです。

「ザ・ジョー・ショウ」
ヴィクトリアのTVを乗っ取った「一時的電子的存在」は、彼女の協力でクリントン大統領とコンタクトしたいと言うのですが…。
途中から変な展開に…そしてやっぱりそういうオチですか(笑)後半重い話が続くので、これでバランス取ってるのかも^^;

「スカウトの名誉」
恋人に去られようとしている女性の元に、謎のメッセージが次々に届きます。
ネアンデルタール人の孤独と、女性の孤独とがリンクした内容が不思議な雰囲気を醸し出しています。

「光を見た」
月面で見つけたピラミッドと、人類との関係は?
異星人とのコンタクトを描いた作品ですが、クラークの有名な作品と同じアイディアだそうです。何か分かりませんでしたが…。

「マックたち」
「被害者の権利」を守るために施行されている法律によって、自宅に届けられる「マックたち」にまつわる出来事を、インタビュー形式で表した作品です。
実在の事件を元にした作品だそうです。発想がすごいですね。遺族たちの複雑な心境もリアルに描き出されています。

「カールの園芸と造園」
無機物でできた植物がほとんどになってしまった世界で、生きた植物を扱う最後の園芸店の物語です。
わずかに残った本物の木や草花を必死で守ろうとする様子と心情に胸が痛みました。園芸店の助手の正体には驚かされます。

「謹啓」
人口過剰のため、70才以上の人間に抽選で科せられる強制的な自殺が行われているアメリカで、その「赤紙」を受け取ってしまった二組の家族の動揺を描いています。
全体の3分の1を占める中編ですが、それだけの重みがある内容です。前半で静かに死を受け入れるはずだった主人公達に訪れる運命が皮肉です。ラストはかなり衝撃でした。人間の尊厳を守るための方法は結局それしかなかったのでしょうか。

「ちょっとだけちがう故郷」「マックたち」「カールの園芸と造園」「謹啓」が特に心に残りました。重い内容でありながら、秀逸なアイディアと叙述の巧みさで読まされます。「ふたりジャネット」でビッスンの面白さに触れた人に、ぜひこちらの作品集も読んで頂きたいです。