キス・キス(異色作家短篇集)  ロアルド・ダール

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異色作家短篇集」は憧れの作品集で、いつか全部手元に置きたいと思っていましたが、なにぶん一冊2千円とお高いので、古本で少しずつ集めていました。でも先日ネットぶくおふにまとめて出ているのを発見し、全部揃えることができました。帯付きで新品同様だったのが嬉しかったです。
なぜか「全部揃ったら読もう」と何となく思っていて、今まで一冊も読んでいませんでした。揃わなかったら宝の持ち腐れでしたね…^^;で、揃ったので思いがけず早く読み始めることになりました。これから第1巻から順番に読んでいきます。

第1巻は児童文学の方がなじみがあるロアルド・ダールです。タイトルは「キス・キス」なのですが、このタイトルの作品は入っていません^^;児童文学以外では昔「あなたに似た人」を読んだことがあるのですが、ずいぶん前なのでどんな話だったのか忘れてしまいました。

「女主人」
新しい町に働きにやっていたビリイは、下宿する場所を探してある宿を訪れます。宿帳を見るとそこに書いてある名前に見覚えが…。
妙に優しげな女主人が不安をかき立てます。だんだんとその宿の秘密が明らかになってくるところ巧いですね。

「ウィリアムとメアリイ」
死を前にした夫から妻に宛てた手紙として書かれています。死んだあと脳だけを生かすことを医者から提案された夫ですが、それは実現したのでしょうか?
長年夫から押さえつけられて来た妻の、ラストの心情が怖いです。

「天国への登り道」
時間に遅れることを気にする妻を、わざと苦しめる夫とのやりとりが描かれています。ラストは偶然…だったのでしょうね?

「牧師のたのしみ」
骨董商であるボギス氏は、田舎の農家に掘り出し物があることを発見します。怪しまれないように牧師の格好で家を訪れ、お目当ての家具を手に入れるために交渉します。
こういうラストになることは予想できますが、ここまで完膚無きまでの結果だと笑ってしまいますね^^;一番好きな作品です。

「ビクスビイ夫人と大佐のコート」
不倫相手に手切れ金代わりにもらった豪奢なミンクのコートを、どうしても手放したくない夫人は、一計を案じます。
コートを自分で取りに行けなかった時点でもう失敗だな~と思いました^^;やっぱり商品名書いてもらうべきでしたね。

ローヤルゼリー
養蜂家である父親は、お乳を飲まず発育の悪い子供のミルクにローヤルゼリーを混ぜることを思いつきます。
ほんとは1才未満の子供に蜂蜜はダメなんじゃ…?ローヤルゼリーはどうだか分かりませんが…。この物語では思いも寄らぬ効果が現れます。

「ジョージイ・ポーギイ」
女性に興味がありながら恐怖心も覚える牧師の元に、彼を誘惑しようという女性達が次々に訪れます。
何でしょうこのラスト(笑)途中までは普通だったんですけど^^;

「誕生と破局
先に亡くなった兄弟達よりさらに弱々しく生まれた赤ん坊の行く末は…?
破局につながる誕生とは、考えると恐ろしいですね。

「暴君エドワード」
ピアニストである妻は音楽を解する猫をリストの生まれ変わりだと思いこみます。この場合、暴君なのは夫なのか妻なのか微妙ですね。

「豚」
両親を亡くした後、叔母に引き取られた少年は、そこで世間を知らないまま育ちます。しかし彼はたぐいまれな料理の才能を持っていました。
残酷な話なのですが、ちょっと「チョコレート工場の秘密」に通じるところもあるような気がします。

「ほしぶどう作戦」
密猟を企てる男達は、キジに睡眠薬入りのほしぶどうを食べさせる作戦を思いつきます。
ラストの光景が目に浮かぶような、コミカルな作品です。

映画の「チャーリーとチョコレート工場」をご覧になった方は気づかれたでしょうが、ただ楽しいだけではない、ちょっと皮肉や風刺の効いたところが垣間見られたと思います。「キス・キス」はそういう面を強調し、ブラックなオチも取り混ぜたものになっています。夫婦間のことをテーマにしたものが多いですね。
異色作家短篇集」の第1作目としてふさわしい作品だったように思います。楽しませてもらいました^^