青の炎  貴志祐介

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まだ貴志さんの作品の中にも読んでいないものがいくつかありますが、これはその一冊でした。出てしばらくして買ったと思うのですが、読む機会を逃したまま私設図書館で眠っていました。手に取った理由は、映画を見たからです。え、これも見てなかったの?と言われそうですが^^;

主人公の秀一と母、妹の遥香の幸せな生活は、ある日家に乱入し居座った母の前夫によって打ち砕かれます。憎悪を募らせる秀一は、完全犯罪を計画するのですが…。

帯にも、映画の紹介にもあった「切ない殺人者」という言葉、確かに映画では切なさを感じさせました。それは多分に二宮君の演技に負うところが大きいと思います。ガレージを改造した自分の部屋で、大きな水槽の中に丸くなって入り、光に照らされながら思いに沈む彼の姿には胸を衝かれました。このシーンは原作にはなく、映画の演出だったのですが。また、原作では思いを遂げる秀一と紀子ですが、映画では静かにお互いの思いや秘密を受け止める関係という感じでした。駅でそっと寄り添う二人のシーンは、それを象徴するシーンだったと思います。

普通にかわいらしい少女だった紀子のキャラクターは映画ではだいぶ変えられていました。でも、映画の雰囲気にはその方が合っていたのかも知れません。ラストの長い、彼女の顔のアップからは、悲しみと共に憤りのような感情が伝わってきました。

原作では殺人計画と理論にかなりのページが割かれています。その分リアルではあるのですが、自分の計画は完璧であると過信した秀一の姿も浮かび上がってきます。最初の殺人は家族を守るためでした。もちろん肯定はできないものの、そこまで追い詰められた彼の気持ちは理解できます。でも、殺人を隠蔽するために行った第二の殺人はあまりにも短絡的でした。一つ犯した犯罪が、さらに次の犯罪につながってしまうお決まりの展開に歯痒いような呆れるような気持ちになります。「犯罪は割に合わない」という言葉を絵に描いたように、どんどん深みにはまってしまった上、犯した罪の重さに苛まれます。若さゆえか自分を過信して、その後どんな心境が訪れるか想像していなかったことが彼の大きな過ちだったのですね。
原作では「切ない」というより、思い上がった人間の浅はかさの方が強く感じられます。

貴志さんとしては珍しいタイプの作品だったように思います。でもこれを読んだら、罪を犯す前に立ち止まって考えるべきだと感じられるのではないでしょうか。



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この本、先週本屋さんで見たかな。
私も読んでみるかな。 削除

2011/5/29(日) 午後 7:22 [ hat*un*19*7 ] 返信する
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ずいぶん昔に読んだけど、映画の妹役は松浦亜弥でしたっけ?ラストあそこまでしなくても、情状酌量とかはあった気がすると思った記憶があります。 削除

2011/5/29(日) 午後 7:23 あややっくす 返信する
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松ぼっくりさん
読後感が良いとは言えませんが、考えさせられる作品です。映画と見比べて見るといいと思います。 削除

2011/5/29(日) 午後 7:40 ねこりん 返信する
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あややっくすさん
松浦亜弥は原作の雰囲気とは違うけれど、映画のキャラとしては良かったように思います。
ラストは、自分が捕まったあとの家族のことが気になったのでしょうね。決め手である鍵が見つかっていなかったことから、彼はそれに賭けたのでしょう。 削除

2011/5/29(日) 午後 7:46 ねこりん 返信する
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これ映画も観てないし、原作も読んでないです。貴志作品ではミステリー系の作品をほとんど読んでません。 削除

2011/5/29(日) 午後 8:57 beck 返信する
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>ベックさん
私も貴志さんのミステリ系の作品はあまり読んでないです。でも「青の炎」はミステリとは言い難いです。ごく普通の少年の人生が狂っていく様子を描いた作品じゃないかと思います。 削除

2011/5/29(日) 午後 9:20 ねこりん 返信する
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主人公はかなり大人びた設定でしたね。そのあたりに非常に引っかかりがあった記憶があります。貴志作品はまだ数冊しか読んでいないのですが、怖い話のほうが自分の好みみたいです(笑) 削除

2011/5/30(月) 午後 1:53 [ テラ ] 返信する
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>テラさん
秀一は頭脳は優れているけれど、人間的な未熟さが目立ちましたね。
私は貴志さんの作品では「新世界より」が一番好きです。 削除

2011/5/30(月) 午後 7:45 ねこりん 返信する
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ねこりんさん、わたしも「新世界より」に一票です^^
でも「青の炎」も結構好きなんですよ。ラストシーンの情景が目に浮かぶようでした。かなり前に読んだのにまだしっかり覚えています。わたしにしては快挙です(笑)。 削除

2011/5/30(月) 午後 10:18 lime 返信する
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>limeさん
映画の秀一が印象に残っただけに、原作の秀一にはちょっと辛口になってしまいました^^;limeさんは映画はご覧になりましたか?
映画の結末は原作通りですが、そこに至るまでの心情はやはり原作の方がよく描かれていたように思います。 削除

2011/5/30(月) 午後 11:20 ねこりん 返信する