運命のボタン  リチャード・マシスン

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タイトル作がキャメロン・ディアス主演で映画化された短編集です。映画は…?な出来でしたが、原作はさすがの巨匠の切れ味でした。

運命のボタン
ノーマの元を訪れた小男は、「このボタンを押せばあなたの知らない人がどこかで死に、その代わりに大金が手に入る」と究極の選択を申し出てきます。
皮肉なラストはジェイコブズの「猿の手」を思い出させます。この短い作品を映画化したわけで、別物のストーリーをくっつけないといけないということは分かりますが、背景が語られない不条理な作品が、なぜかSFになってしまっていたのはどうかと…。

「針」
気に障る女友達をヴードゥーの呪いで殺そうとする女性の物語です。
ドラマ化された作品だそうです。でも、読んでいる途中で結末が分かってしまいました^^;

「魔女戦線」
あるセンターに集められた美少女達と、その外で行われている熾烈な戦いとの関係は?
一見全くつながりのなさそうな物事が関わる意外さが見所です。

「わらが匂う」
妻を亡くした男がある日ふとかいだ匂いは湿ったわらの匂いでした。
心理的なものかと思っていたら、実はとんでもないホラーでした。

「チャンネル・ゼロ」
刑事が、事件に巻き込まれた子供に質問する形式で書かれています。
だんだんと恐るべき事実が明らかになっていく緊迫感はさすがです。

「戸口に立つ少女」
ある日家を訪れた少女によって、家庭が崩壊する様子を描いた作品です。
自分の手で不幸を家に招き入れてしまった母親の苦悩と恐怖がつのる様子が恐ろしいです。

「ショック・ウェーブ」
古くなった教会のパイプオルガンと、それと心を通わす老奏者の物語です。
暴走するパイプオルガンが起こすカタストロフィが迫力です。

「帰還」
タイムトラベルの実験に参加した男に事故が起き、未来から帰れなくなってしまいます。男は何とかして愛する妻の元に戻ろうとするのですが。
結末は何となく予想できますが、SFとしての様々なアイディアが生きていて読み応えがあります。

「死の部屋の中で」
砂漠地帯のレストランを訪れた夫婦ですが、トイレに立った夫が行方不明になります。
映画化されたそうですが、展開にドキドキさせられるサスペンスです。保安官まで悪者だったらどうしようと思いました^^;

「子犬」
息子を溺愛する母親は、子供が気に入った子犬を飼うことを何とかして阻止しようとします。
きっと、子供が自分以外に愛情を向けることが許せなかったのでしょうね。歪んだ愛情にホラー的な要素を絡めて、不気味な作品に仕上げています。

「四角い墓場」
ロボットボクサーのオーナーと整備士は、試合を前にしてロボットが壊れてしまったことに動転します。オーナーがとった驚くべき行動は。
なんと、ヒュー・ジャックマン主演で映画化され、今年公開だそうです。サイトを見ると、原作とは似ても似つかぬ作品のようですが…^^;原作のもつ、滑稽さの漂う哀愁はなかなかいいです。

「声なき叫び」
火事で両親を失った少年を引き取った家族は、彼が全く会話ができないことに気づきます。
星新一の作品に似たような設定のものがありましたね。でも、悲しい結末だったそちらの作品と違い、明るい光の見える終わり方でした。

「二万フィートの悪夢」
飛行機嫌いの神経質な男は、窓から、機体にイタズラをしようとしている奇怪な生物を見つけます。
これはTV映画で見たことあります。細かいところは忘れましたが…。幻想なのか現実なのか微妙なところが面白い味わいです。

運命のボタン」「ショック・ウェーブ」「帰還」「死の部屋の中で」「声なき叫び」が特に印象に残りました。映像化されている作品が多い作家だけあって、アイディアの秀逸さと読者を惹きつけるストーリーテリングが光ります。マシスンはもう80才を越えていますが、今も次々に作品が映画化されているのは、発想自体が古びていないことの証でしょう。私も昔から読んでいた作家さんですが、長編はあまり読んでいないのでこれから読んでいきたいです。