青空の卵  坂木司

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初坂木作品です。やはり始めは引きこもり探偵シリーズだと思って選びました。

鳥井真一は、母に捨てられたことと学生時代のいじめが元で引きこもりになり、コンピュータープログラマーとして生活しています。坂木司は鳥井の優れた才能に憧れを持ち、ある機会に友人となります。それ以来鳥井にとって坂木は唯一無二の存在に。鳥井は坂木が持ち込む出来事の謎を解き明かします。

読んでとてもウェットな作品だと感じました。謎もそうですが、鳥井と坂木の関係が特にそうです。ダメージを受けている鳥井につけ込むようにして友人になる坂木。坂木が自分の全てになり、坂木の感情に非常に影響を受ける鳥井。鳥井は普段クールで毒舌なのに、坂木が泣くとまるで母親が泣いているのを見た子どものようになり、一緒になって泣いてしまいます。坂木は自分が連れて来る人達が鳥井と仲良くなり、鳥井の世界が広がるのを喜ぶ一方、自分が第一であることが揺らぐのを恐れています。相互依存の二人の関係は独特で、こういうのは苦手かなあ…と思いました。それで、途中から鳥井は藤原竜也だと思って読むことにしました。鳥井役にぴったりな気がしたんです。坂木の方は特に配役をしませんでしたが、鳥井=藤原竜也と思うだけで何だかスムーズに読めるようになりました。

「夏の終わりの三重奏」
男性を狙う通り魔事件が起こります。犯人らしい人は一人しかいないのですぐ分かります。人間をパターン化しすぎと思って、事件そのものにはあまりいい印象を持ちませんでした。でも、鳥井、坂木、二人の同級生の警察官滝本の関わりが興味深く読めました。

「秋の足音」
盲目の青年塚田は、自分を尾行してくる人間のことを坂木に相談します。
塚田と尾行者安藤の関係が、坂木たち以上に複雑です。二人の思いが深く掘り下げてあるので読み応えがありました。

「冬の贈りもの」
歌舞伎役者石川助六の元に次々に届く奇妙なプレゼントと、それに遅れて届く手紙の謎とは。
プレゼントの意図、そして手紙がもつ意味合いが意外でした。

「春の子供」
道で困っている子供を保護した坂木は彼を鳥井の部屋に連れて行きますが、なぜかほとんど口をききません。
口をきかない理由は何となくそうかなと思っていましたが、絵が表しているものが意外でした。鳥井と父親の関わりに心温まります。

前の話での登場人物が後の話でも出てくるので、その場限りのつき合いではなく、だんだんと鳥井の周りに新しい人間関係が築き上げられていくのが分かります。相互依存の二人の関係も、三部作の終わりまでに変化が出てくるのかも知れません。