竜が最後に帰る場所  恒川光太郎

イメージ 1

かわいらしい表紙に、いつもの恒川さんとは違う雰囲気?と思いましたが、読み始めると間違いなく恒川ワールドが広がっていました。幻想的で、時には気味の悪い話もあるけれど、それがただの不快さで終わらず、そのイメージの中に漂っていたいという気持ちになります。

「風を放つ」
同僚の彼女からかかってきた電話。顔を合わせないまま何度か話すことになりますが…。
瓶の中に封じ込められた風のイメージが鮮烈です。主人公は彼女のことを忘れても、折に触れ、小瓶のイメージだけがこれからも蘇るのでしょうね。

「迷走のオルネラ」
プロローグの「廃墟にて」と本編の「マスター・ヴラフの日記」、エピローグの「オルネラ」という構成です。オルネラとは本編に出てくる漫画『月猫』の猫の名前です。こう書くとファンタジーのようですが、内容はけっこうリアルで陰惨さも感じます。
プロローグとエピローグのつながりには驚きました。こういう復讐の手段もあるのですね。

「夜行の冬」
この世のものではないガイドが連れ歩く「夜行」について行ってしまった男の行く末は?
転べば死ぬかも知れない夜行に魅入られて、歩き続ける人々の心情が印象に残ります。パラレル・ワールドを取り入れているのが面白いです。

「鸚鵡幻想曲」
宏は「偽装集合体」を見抜いて、それを「解放」する力を持った男の訪問を受けます。
一番好きな物語です。発想が素晴らしいです。何で鸚鵡なのかと思っていましたが…。途中からがらりと様相を変えた物語になるところもいいです。

「ゴロンド」
竜が生まれ、成長し、新天地を目指すまでを描いた物語です。
竜が一度に何千匹と生まれ、他の生き物と同様に生存競争を勝ち抜いて生き延びる様子が新鮮でした。悠久の時の流れの中、目的を持って生きる竜の姿が心に残るファンタジーです。

すらすらと読めてしまいましたが、他の人にない発想が楽しめました。「夜行の冬」のようないかにも日本的な雰囲気の作品から、海外ファンタジー的な作品まで様々な物語があり、恒川さんの引き出しの多さを感じさせてくれました。