告白  湊かなえ

イメージ 1

さっそく、夏の読書計画に入っていない本を読んでいます^^;本屋大賞を取ったこの有名作を、なぜ今まで読んでなかったかというと、まず学校物が苦手だからです。それとイヤミスということは分かってるので、忙しい中気が滅入りたくなかったからです。
でも、映画の評判がとてもいいので、観てみたいと思いました。というわけで、ちょっと仕事が一段落した今の時期に読んでみることにしました。

S中1年B組担任の森口は、辞職することを最後のホームルームで話し始めます。そして語られたのは自分の娘がクラスの人間に殺されたという事実でした。

もう第一章の告白から、まるでラストであるかのような衝撃を与えられます。森口の語り始めから、他の小説とは明らかに違うと思いました。「きれいごと」なんて、穴を掘って埋めてしまったような、本音をズバッと突きつけてくる言葉は、心に突き刺さってくるようです。普通は教師はこんな話し方はしないでしょう。でも娘を殺され、冷徹な復讐鬼となった森口の心情を表すのにふさわしい語り口だと思いました。第一章のラストを読んで、まだ物語はスタートしたばかりなのにこの後どうなってしまうのか…不安にかられた人も多いのではないでしょうか。

次の章から事件の周辺人物や犯人が語る章へと変わります。第二章で犯人Bは不登校となり、家に担任とともにノートを届けに行っている少女の目線で語られます。第三章はBの兄の語りと母の日記、第4章はB本人、第5章は犯人A本人です。各章で事件を様々な角度から見ることができ、その中で新たな事実が判明するとともに、犯人達の周辺も変わっていきます。

AとBは、自分たちの犯罪について全く後悔している様子はありません。Aは能力を過信し、自分の存在を認めさせるために、Bは自分を馬鹿にしたAを見返すために犯罪を犯します。その後彼らが考えているのは自分を正当化することばかりです。もちろんこんな中学生ばかりではないはずですが、少年犯罪の多さを考えると、この身勝手な思考と行動がありがちなものに思えてきます。物語の中では実際の少年犯罪についての例が挙げられていますが、そのうち一つは地元近くで起きた事件です。事件の悲惨さ、遺族の悲嘆、犯人の罪の意識の希薄さはいまだに忘れられません。この事件を思う時、「罪を憎んで人を憎まず」なんて、きれいごとだなと思わずにはいられません。AとBの犯罪についても同じ事が言えるのではないでしょうか。

犯人達に共通して言えるのは、母親との関係の複雑さと父親の存在の希薄さです。家族から適切な愛情を受けられていれば、こんな人間が育つことはなかったように思います。でも森口が言うように、結局は本人の責任なのですけど。不幸な生い立ちの人間全てが犯罪者になるわけではないし、本人の考え方しだいなのでしょう。

森口の復讐は、犯人達にとって最も残酷な方法で行われました。ここまで徹底的に、まさに完膚無きまでに行われる復讐劇は初めて読んだように思います。犯人達に鉄槌が下されることを願ってはいましたが、このラストには背筋が寒くなる思いでした。生徒達の性格やその背景を完璧につかんでいる彼女は、優秀な教師なのでしょう。でも、彼女の恐ろしいまでの執念深さを知ってしまうと、教師になってほしくはないですね。

確かに聞いていた通りのイヤミスではありましたが、一気に読まされる、圧倒的な存在感がありました。やっぱり読んでみて良かったです。「贖罪」も気になっている作品なので読みたいと思います。その前に映画ですね。