真夏の方程式  東野圭吾

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ガリレオシリーズの最新作、長編作品です。
海底鉱物資源の開発についての会議に出席するために玻璃ヶ浦を訪れた湯川は、緑岩荘という旅館に宿泊しますが、そこで宿泊客の1人が亡くなるという事件に遭遇します。亡くなった元刑事塚原は、同じ会議に出席していました。
湯川は緑岩荘の関係者と交流を深めながら事件に関わっていきます。

子ども嫌いの湯川と、恭平という少年との交流が主軸に置かれています。勉強をみてあげたり、花火をしたり、ごく普通に関わっているところが驚きです。あくまで科学者としての視点は保ちつつ、恭平のために人生論を語っているのが、よき理解者という感じがします。「論理的でない相手とつき合うのは疲れる」はずだったのですが、湯川も成長したのでしょうか。
ゲームを無理やりさせられるシーンがありますが、恭平の挑発に乗ってしまうあたり、TVシリーズの湯川を彷彿とさせてかわいらしいです。慌てる湯川というのもなかなか見られないですね(笑)
実験をくり返しながら、恭平と玻璃ヶ浦の美しい海底を見るシーンは、ガリレオらしいエピソードで好きです。
これだけ自然に子どもと接することができるなら、結婚もできそうですね~。でも恋愛についての話は全く出てきませんが…。TVのように、内海と少しは接近すればいいんですが。
その内海の方は、草薙と組んで、なかなかの活躍です。事件の核心に迫ることはなかったものの、鋭い視点で草薙を感心させます。今回は湯川と直接関わって捜査をするシーンがなかったのが残念です。

湯川と恭平のエピソードは心温まりますが、事件そのものは人間関係の複雑さや悲しさを感じさせて重いです。
調べていくうちに、塚原は以前に自分が手がけた殺人事件の犯人である仙波の家を訪れていたことが分かります。なぜ仙波の家を訪れたのか、なぜ会議に出席したのかということを焦点に物語は展開します。
そして湯川が言う、「ある人物の人生がねじ曲げられることになる」という言葉は誰を指しているのか…。

「ある人物」がこんな風に事件と関わってくるとは思いませんでした。湯川の最後の選択は、「ある人物」を守るためには仕方ないものだったと思います。でも、罪の重さを抱えて生きてきた別の人物については、これで良かったのだろうか…と釈然としないものも感じます。
ただ、ある人物にとって湯川との出会いは、人生を左右するものになったことは間違いありません。湯川がいて、関わってくれて本当に良かったと、最後に温かい気持ちになりました。

私はガリレオシリーズでは、科学的トリックがメインに置かれる短編集の方が好きですが、湯川の人間性が感じられる長編も読み応えがあります。クールに見えて、実はそうではない湯川のことがもっと好きになると思います。