11  津原泰水

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津原さんの最新短編集です。津原さんの退廃的で幻想的な香りのする作品が好きです。「ブラバン」のような青春小説も書いておられますが、そちらは未読です。
全11編の中から特に印象に残った作品を挙げます。

「五色の舟」
見せ物小屋を開く、障害をもつ寄せ集めの家族は、人と牛との間に生まれたという「くだん」を引き取りに行きます。未来を読むというくだんから、自分たちの未来を知るのですが…。
新しい人生を得ても、みんなで一緒に住んでいた舟での日々を想う主人公の心情が切ないです。

「延長コード」
五年前に家を出て行った娘の訃報を受け取った男は、自分の知らない娘の生活を知ろうとします。
娘の見た景色を追いかけるために、延々と延長コードをつないで電気スタンドを持ち歩くイメージが異様です。それ以上コードが延ばせなくなると同時に、物語も突然に幕を下ろします。

「微笑面・改」
別れた妻の顔に自分の顔を浸食される男の話です。罪悪感と言ってしまえばそれまでですが、どんどんと攻め入ってくる妻の顔と、押しつぶされる男の顔の描写がリアルです。タイトルがインパクトありますが、前に「微笑面」という作品を書いておられるのですね。

キリノ
個性的な女子であるキリノについて語る、同級生の男子の独白です。
キリノの言動にあきれ、振り回されながらも、何となく気になるという主人公の心情が青春ですね(笑)これがわりと「ブラバン」に近い世界なのでしょうか?
句読点が少ない変わった文体で書かれていて、それが独特のリズムと雰囲気を作り上げています。

「クラーケン」
ドーベルマンを飼い続ける女性の退廃的な遊戯と、壊れていくさまを描いています。こういう物語は、津原さんの真骨頂ですね。

テルミン嬢」
テルミンとは世界初の電子楽器で、二本飛び出したアンテナの間を手を動かすことで音を出します。少し前に出版された本に、テルミンが付録に付いているものがありました。それを見て以来(買いませんでしたが)、何となくこの楽器には興味を持っていました。
自分と呼応する人間の感情を感じ取り、それがアリアとなって歌い続ける女性の物語です。ラストは非常に壮大です。自らがテルミンとなるという発想が素晴らしいですね。音楽療法と結びつけた理論もユニークです。

「土の枕」
SF傑作集の中に入れられているようですが、どこがSFなのかよく分かりませんでした。他人の人生を生きた男の半生を描いています。広島に生まれた作者の、祈りのような思いが伝わってくる作品です。

一番好きな作品は「テルミン嬢」です。しかしどれもこんな世界は津原さんにしか書けないと思われる作品ばかりです。
ユーモアのある幻想怪奇譚である「蘆屋家の崩壊」、きらびやかとさえ感じる目眩く幻想世界「綺譚集」、そして自分の興味ある一点をどんどんと掘り下げてしまったような、この「11」、どれが皆さんのお口に合うでしょうか?