仙台ぐらし  伊坂幸太郎

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「仙台学」という地元誌に掲載されていたエッセイをまとめたものです。

伊坂さんは仙台市在住です。
伊坂さんは震災で大きな被害こそ受けなかったものの、作家としての無力感を感じて、しばらく小説を読むことも書くこともできなかったそうです。でも、二ヶ月以上たって、ようやく原稿を書くまでに立ち直ることができたということです。
それで、この本にも数編の震災後のエッセイ、そして震災後の石巻を舞台にした短編が載っています。

震災前のエッセイは、「~が多すぎる」というテーマで書かれています。

「見知らぬ知人が多すぎる1・2」
特に面白かったのがこの作品です^^
伊坂さんの作品がメジャーになり、伊坂さん本人についても知られるようになった頃から、街で声をかけられることが多くなったそうです。
そのため、人に声をかけられると、「自分の本を読んでくれているのだな」と反射的に思ってしまうそうなのですが、中には単に落とし物を拾ってくれた人や、勧誘、押し売りだったりして、恥ずかしい思いをすることも多いのだとか(笑)
そういう自意識過剰になってしまっている自分のことを、素直に書いているのが人柄だなあと思います^^

「ずうずうしい猫が多すぎる」
野良猫に餌をやっていたら居着かれてしまった話です。
中でも、ツンとしていた白猫が勝手に赤ちゃんを家に連れて入ってくる話が面白いです^^それを人間の女性に例えているのが笑えます(笑)
唖然とそれを眺めている伊坂さんの様子が目に見えるようです(笑)

「心配事が多すぎる」
震災前に書かれたこのエッセイ(2009.2.10)に、近いうちに宮城県沖地震が起きるのではないかと話し合ったことが書かれていたのに驚きました。一番驚いたのは伊坂さん自身でしょうが…。
自分の健康、殺人事件、北朝鮮のミサイルまで、日々心配ばかりしてくらしているのだとか。でも、あっさりと不安を解消してくれる奥様のおかげで、何とか暮らしていけているようです^^;


「震災のあと」
大きな災害に遭った人は、情緒的に不安定になり、感情の揺れが激しくなるそうですが、伊坂さんもその通りのことを経験されたそうです。
前に伊坂さんと中村義洋監督の対談についての記事でも書きましたが、息子さんが「仮面ライダーの映画、早く見たいな」と言ったことに娯楽の必要性を感じたと話しておられました。でも、きっとそれは後から思い返して感じたことなのでしょう。息子さんの言葉を聞いた直後に、伊坂さんは泣いたそうです。
また、東京にいる知人が物資を送ることができるようになったとメールをくれて、
カップラーメンが大量に余ったら、一緒に食べてください」
とあったことに泣けたのだとか。
続く余震、急な停電、原発事故のニュースなど、日々不安な気持ちでいっぱいだった伊坂さんにとって、ホッとさせる友人の言葉は、涙腺を緩ませることになったのでしょう。
復興のためにがんばっている友人や多くの人々の姿を知り、「自分もくよくよしているわけにはいかない」と思ったことが、また小説を書き始める原動力になったのでしょうね。

「ブックモビール
石巻を訪れた移動図書館を運転する2人の男性と、そこを訪れる人々との関わりを描いた作品です。
地震原発のことも出てきますが、それがメインの話ではありません。
どんなことがあっても、普段同様生きていく人々の話と言ってもいいかも知れません。
エピソードとエピソードの思わぬつながり、清々しい読後感はいつもの伊坂さんの物語です^^

前出の対談で伊坂さんは「自分にできることは小説を書くことだけ」とおっしゃっていました。
音楽に心を癒す効果があるように、小説にも人を力づけたり癒したりする効果は必ずあると思います。
「ブックモビール」を読んで、伊坂さんが書かれた小説をまた読めることをとても嬉しく思いました。
次の作品「PK」も、もう手元にあります。大好きな作家さんの小説のもつ力をこれからも信じて、大切に読んでいきたいと思っています。




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なるほど、~が多すぎる。
そうですね。良い事より、悪い事が多すぎるって感じでしょうか?!
チェックしておきます。 削除

2012/3/12(月) 午後 7:30 [ hat*un*19*7 ] 返信する
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僕もちょうど昨日、3月11日に買いました。偶然ですけど。
なのでこの記事を全く読んでません^^
また読了したら読みに来ます。 削除

2012/3/12(月) 午後 11:27 [ アル・アル ] 返信する
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人それぞれ、それぞれの領分があります。作家は小説を書くこと、アーティストは音楽をつむぐこと、芸人は笑いを生むこと。震災後、「不謹慎」と言われることもありましたが、結局人はそれぞれの領分でそれぞれの役割をこなすことで、少しずつ社会を明るくしていくしかないのだと思います。伊坂さんの小説がまた読めると思うと、うれしいですね。 削除

2012/3/14(水) 午前 3:01 大三元 返信する
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松ぼっくりさん

悪いこと、と言うより、困ったり流されたりする自分自身を見つめたエッセイという感じがしました。
温かい人柄が感じられるエッセイ、そして震災を乗り越えて書かれた物語の清々しさに、伊坂さんがまた書き始めてくれて良かったと心から思いました^^ 削除

2012/3/14(水) 午後 8:30 ねこりん 返信する
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>アル・アルさん
今まで伊坂さんの作品を読んだことがある方なら、このエッセイと物語には必ず心打たれると思います。
また感想をお聞かせ下さいね^^ 削除

2012/3/14(水) 午後 8:32 ねこりん 返信する
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大三元さん

私もそう思います^^
私は、復興支援に直接関わる仕事ではありませんが、長期的に見て、支援につながることもあるのではないかと思っています。
震災後長く沈黙していた伊坂さんのことが心配でしたが、新作が出てとても嬉しいです^^ 削除

2012/3/14(水) 午後 8:42 ねこりん 返信する
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読み終わりました。
「~多すぎる」のエッセイは面白かったですね^^短編も面白かったです。
震災後のエッセイは泣きました。
また伊坂さんの作品を読めることを嬉しく思えるいい本だなと感じました^^ 削除

2012/3/22(木) 午前 0:13 [ アル・アル ] 返信する
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先日読みました。伊坂さんの人柄がよく出ていましたね。その前に「PK」も読み終えたのですが、まるで震災後に書かれた作品のようにも思えました。サラリと面白い作品でした。記事を書く時間がないのが残念です(苦笑) 削除

2012/3/22(木) 午後 6:07 [ テラ ] 返信する
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>アル・アルさん

始めはエッセイだけなのかと思っていたのですが、思いがけず短編の新作を読むことができて嬉しかったです^^
震災後のエッセイには胸を衝かれるものがありましたね。
大変な経験を乗り越えた後に書かれる言葉には重みがありました。 削除

2012/3/22(木) 午後 9:00 ねこりん 返信する
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>テラさん

もう「PK」も読まれたのですね~。
私も、今読んでいる作品が終わったら読みたいと思います^^
前作のエッセイでも思いましたが、ほんとに伊坂さんっていい人ですよね^^ 削除

2012/3/22(木) 午後 9:03 ねこりん 返信する
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伊坂さんが小説を書くことで勇気づけられる被災地の方もたくさんいますよね、きっと。言葉の力って、私もすごく大きいと思います。これからも、楽しい作品をたくさん書いて頂きたいです。 削除

2012/8/9(木) 午前 0:29 べる 返信する
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>べるさん

ほんとに、おっしゃる通りです^^
特に、地元の作家さんがまた作品を書き続けてくれることは、被災地の方にとって大きな力になると思います^^
夜の国のクーパー」も読むのが楽しみです♪ 削除