猫鳴り  沼田まほかる

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初めて読む沼田さんです。
「九月が永遠に続けば」にしようかと思っていましたが、体調がいまいちだったのでこちらにしました(笑)
本の雑誌」の「おすすめ文庫王国2010~2011」の第1位だそうです。

「猫鳴り」とは、主人公の1人である藤治が、猫がごろごろとのどを鳴らす様子を呼んでいる言葉です。確かに猫がのどを鳴らしている時って、体に振動が伝わってくるような感じで、「猫鳴り」という言葉はぴったりだと思いました。

第一部は藤治の妻信枝が主人公です。
40になってから初めての子供を妊娠しますが、残念なことに流産してしまいます。その心と体のやり切れない空洞と、庭に迷い込んだ子猫との間で揺れる心情を描いています。
信枝は、喪失感を子猫で埋めるようになることをたまらなくイヤに思い、何度も子猫を捨てに行きます。猫好きからすると、そのやり方は何とも残酷に思えますが、子猫は強い生命力で生き残ってとうとう飼われることになり、モンと名付けられます。
亡くした子供のことを口に出さないことを暗黙の了解にしていた夫婦ですが、子猫のことを機会に、初めて話します。その時に藤治が信枝にかけた言葉が胸に残ります。
「仔猫が赤ん坊に見えたって、ちっともかまわんじゃないか。しっかり生きて、いろいろなものを見るたびに、何遍も何遍も思い出してやろう」

第二部は、母親が出ていき、父親と2人で暮らしている中学生行雄が主人公です。
不登校になり、小動物と幼児に憎悪をつのらせる行雄の行動はしだいにエスカレートしていきます。
しかし父親が拾ってきた仔猫の世話をし始めてから、行雄の心情に変化が表れます。
自分のことしか考えていなかった行雄が、命の重みを知って涙を流せるようになったことに安堵させられます。

第三部は信枝が亡くなった後、二十歳になった猫モンと暮らす藤治が主人公です。
藤治もモンも老い、モンは死期が間近です。
モンとともに過ごしている様子を、「丸ごと曖昧に溶け合って安心している」と藤治は表現します。
猫と一緒にいることの気持ちよさ、温かさを思い出し、ほのぼのとした気持ちになります^^
やがてほとんど餌を食べなくなり、最期を迎えようとするモンと、それを受け入れられない藤治の心情が細やかに描かれます。
藤治はモンの体を撫でて、猫鳴りを感じることで、モンが生きていることを感じようとします。そして藤治に心の準備ができるのを待っているかのように、モンはぎりぎりまで精いっぱい生きようとします。
亡くなる直前まで藤治の呼びかけに尾を振って答えるモンの姿に涙が止まりませんでした。

猫によって癒されたり、教えられたりすることに、きっと共感できると思います。
心に残る良い作品でした。