罪悪  フェルディナント・フォン・シーラッハ

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先に読んだ「犯罪」が印象に残ったので、こちらも読んでみることにしました。
これも前作と同様、弁護士の視点から書かれた、事実をもとにした短編集になっています。
今回、超短編も含め、15編もあるので、特に心に残ったものを紹介します。

「ふるさと祭り」
祭りの暑さと喧噪の中で起きた信じられない事件を描いています。
結末はもっと信じられないものの、これが現実なのかもしれない、こういう判決は珍しくないのかも知れないと思い、それがやりきれなかったです。

イルミナティ
寄宿学校で行われていた秘密結社遊びが、思わぬ結末を招きます。
寄宿学校という閉鎖された空間、そして絡められたアルラウネ(ドイツ産マンドレイク)の逸話が不気味です。

「子どもたち」
子ども達の証言によって、児童虐待の疑いをかけられ、有罪になった男のその後を描いています。
ひどい事件ですが、子ども達にとっても男にとっても最善の展開になったのではないでしょうか。

「解剖学」
動物殺しに飽きたらず、人間を手にかけようとしていた男を待ち受けていたものは。
これが事実ならば、まさに「事実は小説よりも奇なり」です。超短編ですが、それがまたインパクトを感じさせます。

「雪」
麻薬密売人のために自宅の部屋を貸していた老人は黙秘を続けます。その理由は?
老人のその後と、密売人のその後が対比されますが、老人が手に入れるある物を失う密売人が象徴的です。

「鍵」
麻薬密売に関わるコインロッカーの鍵を巡る、ドタバタ劇です。
これだけは大切にしろ、と言われた3つの物がどれもめちゃくちゃになってしまうのがおかしいです(笑)
ラスト、これで一応大団円なんでしょうか^^;

清算
DVの夫から自分と娘を守るために、とうとう犯行に及んだ妻。その裁判の成り行きを描いています。
DVの描写が残酷なほど克明に書かれていますが、結末に説得力を持たせるためには仕方がないのでしょう。

「秘密」
明らかに頭のおかしい依頼者を病院に連れて行くことになりますが…。
ラスト三行で根底を揺るがされるか、それとも単なる依頼者の思いこみやその場逃れと考えるか…それは読者に委ねられています。


シンプルな文体ではありますが、弁護士としての感情も見え隠れし、ドライな印象は受けません。
不条理な結末のものもある一方、登場人物の行く末に安堵する結末もあり、それが良いバランスになっていて、ただ暗いだけの物語になるのを防いでいます。前作も、最後の作品に救われました。

ラストの「秘密」のとらえ方によって、続編があるかどうかも決まってきそうですね。