ピカルディの薔薇  津原泰水

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大好きな「蘆屋家の崩壊」の猿渡と伯爵が活躍する「幽明志怪」シリーズの短編集です。
伯爵が出てくるのは3編だけですが、猿渡と伯爵のコンビが揃うとそこはかとなくユーモアを感じさせます。

「夕化粧」
猿渡本人は出てこず、猿渡に届いた手紙に綴られた綺譚が語られます。
2人の女性と死に別れた男が、庭に生えたおしろい花に幻惑されるさまを描いています。
確かにおしろい花は生育力が強く、以前にプランターに生えたものが何か分からずに、花が咲くまでほうっておいたらおしろい花だったことがあります。
作者にもそういう思い出があるとあとがきにありました。

「ピカルディの薔薇」
療養所で過ごす人形作家である青年にまつわる謎とは。
中井英夫の「虚無への供物」のオマージュ作品だそうですが、未読なので、詰め込んだという「虚無」のモチーフはさっぱりわかりませんでした^^;
ただ、先日偶然青薔薇について検索したところだったので、それが重要なモチーフとして出てきたことに驚きました。

「超鼠記」
「蘆屋家~」の文庫版にも入っていて、私が読んだのは単行本版だったので読めなくて残念だった作品です。
始めに巨大なネズミ、ヌートリアについて語られますが、さすが津原さん、一筋縄では行きません。「超鼠」とはどういうことなのか…意外な結末が待っています。

「籠中花」
奄美諸島の一つ主鵺島を舞台に、島の伝承とガジュマルの木、大挙する陸ヤドカリなど南国らしいモチーフを散りばめた作品です。
ストーリー自体は明るくはないのですが、伯爵のおかげで何となく和らいだ雰囲気になっているのが救いです。

「フルーツ白玉」
「籠中花」に出てくる白鳥の過去のエピソードで構成された物語です。
猿渡と伯爵と言えば食べ物についての蘊蓄ですが、今回はゲテモノです^^;
作者は楽しんで書いているようですが、相当気持ち悪いです;;
ラストの甘酸っぱいエピソードは作者なりにバランスをとったのかも知れませんね。

「夢三十夜」
夏目漱石の「夢十夜」を下敷きにしているのはもちろんですが、あとがきを読むと成立過程が分かってさらに楽しめます。
「不条理な悪夢のような」依頼に応じたとありますが、内容もその通りの作品です。

「甘い風」
「猿渡主役のウクレレホラー」というお題に応じた作品だそうです(笑)
作者がウクレレをいつも持ち歩いていたからなのだとか。
なるほど、ウクレレもホラーになり得るのだなと思いました^^;タイトル通りの甘い作品ではありません。

「枯れ蟷螂」
「ガラさん」と呼ばれる近所の一風変わった女性との関わりを描いています。
作者の子供の頃の思い出を元にしているだけあって、郷愁に満ちた内容になっています。

「新京異聞」
満州国の都、新京を舞台にした、一種の桃源郷ストーリーです。
出てくる猿渡は、年代的に祖父と言うことになりますが、作者はその辺りを曖昧にしておきたいようです^^;
伯爵が出てきますが、職業も怪奇小説家ではなく指揮者なので、ご先祖様かも知れません。


期待にたがわず、夢か現か境界を漂うような幻想世界を堪能させてもらいました。
次の「猫の眼時計」も楽しみです。