ここがウィネトカなら、きみはジュディ  大森望編

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毎年夏にはSFを一冊は読むことにしているのですが、今年はこれです。読み終わったのが秋になってしまいましたが^^;
時間SFを集めたアンソロジーです。どれもはずれのない粒よりの内容になっていますが、13編の中から特に印象的だったものについて紹介します。

「商人と錬金術師の門」  テッド・チャン
アラビアン・ナイトの世界で繰り広げられる、過去を変えようとする男の物語です。
舞台設定が何とも魅力的。そして、読み終わった後にはしみじみとした感動があります。
アメリカでは豪華本で出版されたそうで、検索すると美しい挿絵をいくつか見ることができます。
チャンの代表作「あなたの人生の物語」もぜひ読まなくては!という気持ちにさせられた作品でした。

「限りなき夏」  クリストファー・プリースト
異星人により凍結されていた男が、過ぎ去りし日々とともに失った女性を取り戻そうとしますが…。
戦争時代という背景と、輝いていた過去の夏の対比が印象的です。
名作とされるだけのことはある、心に残る作品です。

「彼らの生涯の最愛の時」  イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア
老齢の恋人を失った少年が、彼女を取り戻すためにタイムマシンで過去に戻ります。
マクドナルドでスーパーサイズの女性や男性にたびたび阻まれるシーンに爆笑です(笑)

「去りにし日々の光」  ボブ・ショウ
光が通る時間が遅いために、過去に映した景色を留めることができる「スローガラス」。
道中ふと目をとめた男と妻は店に立ち寄ります。
このテーマで連作短編集も出ているようです。ガジェット1つで様々な物語が生まれるのですね。

「昨日は月曜日だった」  シオドア・スタージョン
スタージョンの作品ではちょっと珍しい感じの、コミカルな作品です。
「水曜日」の舞台設定を整える裏方たちの仕事場に入り込んでしまった男の行く末は?
「チョコレート工場」を想像させるようなドタバタした感じがいいです^^
監督官同士のいさかいが面白いです(笑)

「旅人の憩い」  デイヴィッド・I・マッスン
場所によって時間の流れが違う世界。戦闘員である主人公の人生を描いた作品です。
流れの速さによって、名前の長さまで変わってしまう発想がすごいです。
流れの速い場所の数十分が遅い場所の数十年に相当し、それが驚くべきラストにつながります。

「12:01PM」  リチャード・A・ルポフ
時間のバランスが崩れて1時間を永遠にループし続ける現象が起こります。前のことを記憶したままループしている男は、何とかして1時間内でループを止める方法を探ります。
必死に行動する男、過ぎる1時間…サスペンス的な楽しみ方もできる作品です。

「夕方、はやく」  イアン・ワトスン
人類の文明の発展800年分がたった1日で行われ、さらにその1日がループするという唖然とする発想の作品です。
朝には掘っ立て小屋で農耕を行う生活から、夜には文明の利器に囲まれた生活に…そのサイクルの速さに人間はついていけるのでしょうか?

「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」  F・M・バズビイ
自分の過去と未来を行ったり来たりして、飛び飛びに人生を送る男女の物語です。
成長したあとのジャンプだと、その時の記憶は保ったままなので、大人の記憶をもったまま赤ちゃんの生活という突飛なことも起こってしまいます。
その時代にいる期間もランダムだし、相当混乱するでしょうが、よく順応するものです^^;

難解な理論がほとんどないので、読みやすいです。少しはあっても、さっと読み飛ばしても問題ないです(笑)
それだけ物語として読ませる作品が揃っています。
科学が発達して、過去のSF作品で取り上げられたことが実現する世界になりつつありますが、時間だけはまだ思うがままにならないですね。だからこそSF作家の想像力を刺激するテーマなのでしょう。今後も時間SFの優れた作品が生み出されることが楽しみです。