2013 ザ・ベストミステリーズ  日本推理作家協会編

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2012年に発表されたミステリーの中から、特に優れていると評価された作品を集めたアンソロジーです。東野さんが序文を書いています。
そのように銘打つだけあって、読み応えのある作品が揃っていました。
全12作のうち、特に印象に残った作品を紹介します。

「機巧のイヴ」  乾緑郎
江戸時代、好きになった女性の機巧人形(オートマタ)を稀代の人形師に作らせようとする男の物語です。
これはすごい!現代物や未来物でも成り立ちそうな話を、時代物にしたのがいいですね。
闘蟋のためのコオロギが効果的に使われ、ラストの余韻も素晴らしいです。
このアンソロジーで一番気に入った作品です。

「青い絹の人形」  岸田るり子
墓から亡くなった遺体、見つかった白骨死体…いくつかの事件がリンクして意外な結末に向かいます。2時間物のサスペンスになりそうなよくできた話ですが、後味が悪いですね…^^;

「ゆるやかな自殺」  貴志祐介
実は、これが目当てでこの本を手に取りました。防犯探偵榎本シリーズの最新作で、ドラマではもう放送済みです。
暴力団事務所の密室で拳銃自殺したように見える男。その謎を榎本が解き明かします。
ドラマでは亡くなった男の娘が雰囲気をなごませていますが、原作では、一刻も早く事務所を立ち去りたい榎本の心情が笑わせてくれます。

「妄執」  曽根圭介
引きこもりに近い生活を送っている友人が、事件を起こすのではないかと主人公は心配しますが…。
いや~これはびっくり。イヤな話ですが巧いです。読み返すと伏線もちゃんとあって感心させられました。

「宗像くんと万年筆事件」  中田永一
言わずと知れた乙一さんの作品です。
ランドセルに入っていた高級万年筆を盗んだ疑いをかけられた主人公は、クラスで孤立している宗像くんに相談することに。
中田さん名義なので、青春小説としても読めますが、なかなか正統派のミステリーです。

「悲しみの子」  七河迦南
児童相談員の主人公は、両親の離婚によって家族と引き裂かれようとしている子供の悩みを知ります。
七河さんの作品なので、仕掛けがあると思っていましたが…やっぱり、と思ったら、まだその先がありましたか!やられました。

「暗い越流」  若竹七海
このアンソロジーに収録後、日本推理作家協会短編賞を受賞した作品です。
死刑囚にファンレターを送ってきた女性は、行方不明になっていました。事件記者と弁護士は事件の調査に当たることに。
けっこう強烈な登場人物がいろいろ出てきますが、事件そのものにはそれほど関わりがないんですよね…。なんだかもったいない気がします。
しかも、事件とは全く関係ない、あるトリックが仕掛けられていて…これがラストの伏線になるんでしょうか。いろんな要素が詰め込まれていて、様々な読み方ができそうです。

読んだことのない作家さんもあり、様々なタイプの作品に触れることができて楽しかったです。
特に乾さんの作品は収穫でした。映画化された「完全なる首長竜の日」も読んでみようと思います。