秋の牢獄  恒川光太郎

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秋に読みたいと思いつつ、長年積んだままだったこの本をついに読みました。
読み終わったのは冬になってしまいましたが。
どこかに閉じ込められた人々という設定が共通の短編集です。連作ではありません。

「秋の牢獄」
秋の中でも11月7日に読むべきだったんですね。
11月7日の中に閉じ込められ、その1日をループし続ける人々の物語です。
中にも出てきますが、グリムウッドの「リプレイ」を下敷きにしているようです。
主人公と他のリプレイヤーたちは、不安の中でも生きる喜びを見つけようと模索します。しかし一方で跋扈する「北風伯爵」によって起きる喪失…。
見方を変えれば、これは人生と一緒なのかも。最後の一文も、「一日」を「人生」と置き換えて読めそうです。

「神家没落」
神域に建てられた家の家守としてとらわれた男。誰かを誘い入れて交代すれば家を出ることができるのですが…。
こういう設定の話はテレビでも観たことがありますが、招き入れた男の素性から、物語は思わぬ展開へ。
ラストを読むと、これはある海外作家の作品のオマージュでしょうか。タイトルも似てますし。

「幻は夜に成長する」
幽閉されて、新興宗教の教祖の役割を果たすリオは、実際に目に見える幻を作り出す力を持っていました。物語は、子供時代から教祖になるまでの人生をたどっていきます。
人を感動させることのできる素晴らしい力でもあるはずなのに、それが人生を狂わせていくところが怖いです。
父親の助言が的を得ていて、ずっとリオのそばにいてくれたら…と思いました。

寂寥感やもの悲しさを感じる内容が多かったですが、「秋の牢獄」が良かったです。リプレイヤー達に新しい日々が待っていると信じたいです。