もしもし、還る。  白河三兎

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田辺志朗は、目覚めると、サハラ砂漠のような場所にたった1人でいました。そこに、電話ボックスが空から降ってきて、志朗はある理由でその中から出られなくなってしまいます。
その電話からつながるのは、119の男,湖の上にいるという女性です。

ダ・ヴィンチのプラチナ本に選ばれていた作品です。
「広大な砂漠に電話ボックス」という様子を思い浮かべただけでシュールな雰囲気が漂ってきます。シチュエーションはSFですが、内容はミステリです。
志朗がいる場所はどこなのか、なぜそこにいるのかという謎は、志朗が関わる事件へとつながります。
「ぐるぐる」という過去の章、「さらさら」という現代の章が交互に書かれ、過去を語ることと、電話での会話によって、だんだんと真実が明らかになっていきます。

後半になると、前半の謎が次々と解明されていきますが、それにつれて加速度的にイヤミス度がアップするので、気持ちよさはあまり味わえません^^;

志朗のキャラクターが自己中心的で、周囲の人間への不信感が激しく、はっきり言ってイヤな奴です。人を愛する気持ちを持てないまま、キリとつきあいますが、志朗を襲ったのはキリ…それとも?
幼い頃の記憶、高校生の時の事件…求めても得られなかった愛情は、様々な形で歪みを生んでいたのですね。
愛されなかった人間が、親の愛情を期待してそれが裏切られるのを恐れるあまりにとろうとする行動が切なく悲しいです。

読み終わってみると、愛憎ものだったな、という感じでしたが、伏線回収が見事だったのと、SF設定が最後まで生かされていたのはなかなか読み応えがありました。