箱庭旅団  朱川湊人

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幻想的な掌編を集めた短編集…と思いきや、帯には「連作短編集」の文字が。
これら十六の物語が、どのようにリンクしていくのかが気になりました。
物語のテイストも舞台もそれぞれ違い、とてもリンクするようには思えなかったのですが…。

「旅に出ないか」は、「オズの魔法使い」をモチーフにした世界で、白馬とともに旅に出る少年の物語です。
「一冊図書館」は、たった一冊しか蔵書がない不思議な図書館の物語。
「秋の雨」は亡くなった孫の存在を感じ、何とかして引き留めようとする祖母の思いを描いています。
「夜歩き地蔵」は、謎の地蔵に近づかないように忠告されるホラーです。
「藤田クンと高木クン」は、ホラー風味のシチュエーション・コメディで、すべて会話で構成されています。

一番好きな「黄昏ラッパ」。町のみんなから愛される、障害を持った豆腐屋の青年にまつわる、胸を打つ物語です。

後半になるにつれ、少しずつリンクが見えてきます。行方知れずになった登場人物が思わぬ形で現れるなど、驚きも待っています。

最後の「月の砂漠」は、「旅に出ないか」に通じる幻想的な作品です。
きっと、3.11以降に書かれた作品なのでしょう。
歌には実際的な力はないけれど、悲しみから再び立ち上がる時に役に立つということ、
「人は歌ったり、読んだり、空想したりすることで、心の力を取り戻すのですから」
という文章は、以前伊坂さんも同様のことを語っておられたことを思い出しました。

一つ一つが突出した感じではないけれど、朱川さんらしい不思議な読後感でした。
続編「黄昏の旗」も読んでみたいです。