ロング・グッドバイ  レイモンド・チャンドラー

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ドラマが思いがけず面白くて、原作(村上バージョン)を先に読み終わろうとがんばりましたが、結局最終話をキープして、ようやく読み終わりました。ドラマも先ほど終了。

もともとハードボイルドが苦手で…。男の美学っていうのが理解できなくて^^;でも、それを許せるくらいにこちらが年を取ったっていうことでしょうか。ドラマのこともあって、意外とすらすらと読めました。

探偵のフィリップ・マーロウは、酔いつぶれた男テリー・レノックスを介抱し、それが縁で飲み友達になります。ある日テリーは拳銃を持ってマーロウの前に現れ、空港まで送ってほしいと頼みます。その後、テリーの妻が殺されていたこと、テリーがその犯人として手配されたことを知りますが…。

これほどの長編をドラマでは全5回?と思いましたが、実際メインストーリーとしてはそれぐらいで収まる話なんですよね。
村上さんはあとがきで「寄り道の達人、細部の名人」と作者のことを語っていましたが、それぐらい様々な物事を洒落た言葉で事細かに描写しています。
そしてどの登場人物も雄弁すぎるほど雄弁で。マーロウも孤高の探偵にしてはよくしゃべる^^;
でも、確かに彼が語る言葉の中にはかっこいい台詞がたくさんありました。
例の名台詞「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」
ずいぶんあとになって出てきましたが、こういうシチュエーションだったんですね。

マーロウとテリーの関係が切ないです。
テリーは送ってもらった時、すごく呼び止めてほしかったんですね。
それはテリーの弱さというか甘えなんだけど、心惹かれるシーンです。
マーロウはあっさりと帰ってしまうけれど、あそこが分かれ道だったと、彼自身も思っていたのでしょう。テリーの無実を信じ、これほど事件に関わったのも、あの一瞬への後悔があったからではないかと思います。
きっとこの時、マーロウの一部分は少しだけ死んでいたのかも。

わがままで奔放なテリーの妻シルヴィア、酒浸りの作家ロジャー、薬漬けの妻アイリーン、
事件を権力でもみ消そうとするシルヴィアの父ポッター。
どうしようもない登場人物たちのどろどろとした人間関係の中にあって、ある人物同士の密かな愛情と、マーロウとテリーの友情が純粋なものとして心に残ります。

ギムレットを飲むには少し早すぎるね」
ドラマの最終回のタイトルが「早すぎる」だったので楽しみにしていたのですが、
出てきませんでした。
原作のマーロウがラストであまりにもシビアだったので(というかシビアにふるまったので)、ドラマのラストは温かくさえ感じました。
このシビアさがハードボイルドたる所以なのかも知れません。

マーロウ役の浅野忠信さん、テリー役の綾野剛さんがとても良かったので、ドラマを始めからまた見直してみたいと思います。