もっと厭な物語(アンソロジー)

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「厭な物語」は海外作品ばかりでしたが、続編は、日本の作品が四編入っています。

「『夢十夜』より 第三夜」  夏目漱石
「こんな夢を見た。」から始まる、有名な短編集です。子供を背負って歩く父親が背負っているのは、実は彼の業なのかも。山白朝子(乙一)さんの作品をふと思い出しました。

「私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書」  エドワード・ケアリー
題が長い…^^;でも、実は題の長さもこの物語を象徴しているのでは?と読み終わって思いました。
報告書の意味するところは始めからはっきりしているのですが、その加速度ぶりがコワイです。

「乳母車」  氷川瓏 
夜中に乳母車を押して歩く女性と行き会った男は、話しかけてみますが…。
ラストの予想はつきますが、雰囲気のある作品です。

「黄色い壁紙」  シャーロット・パーキンズ・ギルマン
部屋の壁紙の模様に、徐々に精神を蝕まれていく女性の物語です。
彼女の言葉を聞き入れない夫にイライラしました。女性の立場が弱い、そういう時代を描いた作品として評価されているそうです。
女性が狂気に踏み込んでいく描写がリアルすぎて寒気がしました。

「深夜急行」  アルフレッド・ノイズ
子供の頃に読んだ本の挿絵が持つ原初的な恐怖を描いた作品です。
私も、子供の頃どうしても怖かった本の挿絵があるので、この物語がもつ恐怖感がよく分かります。

「ロバート」  スタンリイ・エリン
あと少しで定年を迎える女性教師ギルディーは、クラスのロバートの様子に手を焼いていました。始めは教師らしく接していた彼女ですが、だんだんと追い込まれていきます。
これはイヤな話ですね~。でも、普通に考えれば、子供の言動の背景を考えるのは当たり前なのに、やっていないギルディーに問題があります。

「皮を剥ぐ」  草野唯雄
子供の頃の思い出話から、残酷な行為を実践することになってしまった3人の顛末。
最低最悪の表現をこれでもかと繰り出した、読んだ気分の悪さではこの本で一番の作品です。

「恐怖の探究」  クライヴ・バーカー
恐怖を引き出すために、男が仕掛けた恐ろしい実験とは。
前に読んだバーカーの作品、ストーリーは覚えていないのに、その時に感じた嫌な感じだけは覚えていて、この作品も非常に身構えて読んだのですが…。
生理的なイヤさは相変わらずでしたが、先が気になってどんどん読み進めてしまいました。
悲惨で悪夢的な展開の中、読者にゆがんだカタルシスを与えようとしている作者の意図が見え隠れします。

「赤い蝋燭と人魚」  小川未明
読んだことがある物語ですが、ラストを忘れていました。人の心を信じて裏切られた人魚の復讐譚…ではあるのですが、穏やかでもの悲しい語り口が、心に染みいるようです。

「著者謹呈」  ルイス・パジェット
魔術師と呼ばれる男を恐喝するために訪れたトレーシーは、不測の事態を引き起こしてしまいます。部屋で見つけた謎の本を持って逃げますが、その本には不思議な力が。
これは面白いです。男をどんな危機が襲うのか、本の示すメッセージは何なのか、ちょっとした冒険譚のようでした。
始めの伏線が生かされたラストも秀逸です。これが編者解説のあとに来ていることもなるほどと思いました。

厭度で言うと「皮を剥ぐ」「黄色い壁紙」「ロバート」、読み応えで言うと「恐怖の探究」「著者謹呈」が心に残りました。