満願  米澤穂信

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直木賞ノミネート、山本周五郎賞受賞作品です。
儚い羊たちの祝宴」で黒さ全開だった米澤さんですが、この「満願」は黒いというより暗いです。どれも非常に精緻に構築された話で説得力があるので、読み終わるとさらに暗い気持ちになります^^;

「夜警」
犯人に立ち向かい、殉職した警官は、「警官に向かない男」だった…。
その背景に隠された謎とは。
う~ん、確かに。警官には向きませんね。ていうか、こういう人はなっちゃいけないでしょう。

「死人宿」
毎年人が死ぬことで「死人宿」と呼ばれる秘湯の宿に落ちていた遺書。
3人の宿泊客の中から書いた人物を捜すというフーダニットです。
手がかりがはっきりと提示されているので、注意深く読めば、見つけられるはず…ですが、私は見逃しました^^;

「柘榴」
夫婦の離婚を、妻と娘の二人の視点から語った作品です。
鬼子母神の話が元かと思いましたが、ギリシャ神話の方でしたか…
夫がどうしようもない男であるにも関わらず、人を惹きつける男として描かれているのが腹が立ちます。振り回され、してはいけないことに手を染める家族が哀れです。

「万灯」
バングラデシュ天然ガスの採掘権を得ようとするやり手の商社マンが、思わぬ形で悪事を裁かれることになります。
今までの作品とは様相を変え、外国の空気感が色濃く生かされています。主人公が犯罪に手を染めるのも、この空気に呑まれたのかも知れません。一つ犯罪を犯すとまた次の犯罪へ…とお決まりの道を辿るのですが、このラスト、巧いですね。因果応報という言葉がぴったりです。

「関守」
都市伝説のムックのために、事故死が頻発するという峠に取材に出かけた男が聞いた話とは。
だんだん、イヤな方向に話が進んできたな~と思いましたよ^^;
たぶんライターの男もそう思ったはず。気づいた時にはもう遅いんですが。

「満願」
弁護士を目指す学生だった男を支えてくれた下宿先の女性の犯罪を、弁護士になってから解き明かす物語です。
女性との温かい思い出が8割方だけに、その計算し尽くされた真相には背筋が寒くなるものが。もしかしたら、主人公を支えたのも、こうなることを予測して?などと想像が広がってしまうのも怖いです。

短編集だし、1つぐらい明るい話があっても良かったと思うんですが…。
「死人宿」以外、小説新潮なので、同様のコンセプトで書かれているのかもしれません。
最も読み応えがあったのは「万灯」心に残るのは「満願」でした。
どの作品も、この先どうなるんだろうという不安や想像の余地を残しているのが巧いですね。