裏切りのサーカス  監督 トーマス・アルフレッドソン

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原作は、ジョン・ル・カレのスパイ小説です。
冷戦時代、英国情報部の作戦チーム“サーカス”に潜り込んだソ連の二重スパイ“もぐら”を見つけ出すというストーリー。

とにかく渋いおじさま俳優がいっぱいで、内容も渋く淡々と進みます。
主役はジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)。情報部のリーダーだったコントロールジョン・ハート)の右腕です。

ハンガリーに送り込んだ部員のジムが撃たれて、作戦が失敗したことの責任を取って、コントロールとスマイリーはチームを去り、代わりに4人の部下が実権を握ります。それが、
 アレリン【コードネーム:ティンカー】(トビー・ジョーンズ
 ヘイドン【テイラー】(コリン・ファース
 ブランド【ソルジャー】(キアラン・ハインズ
 エスタヘイス【プアマン】(デヴィッド・デンシック
です。この中にもぐらが…。

スマイリーは実働部隊のリーダー、ピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)を使って、もぐらをあぶり出す捜査を始めます。

また、ギラムの部下であるリッキー(トム・ハーディ)は、イスタンブールでの諜報活動中に行方不明になり、東側に寝返ったと思われていたのですが、実は、もぐらについての情報をソ連の女スパイから得て、それを伝えようとしていたのでした。

おじさま達が暗躍する中、ベネさんとトムハが実に若々しいです。ベネさんは金髪のさらさらヘアに明るめの色のスーツをビシッと着こなし、水色のタイとお揃いのチーフがおしゃれです。対してトムハはカジュアルで飾らない魅力が。ソ連のスパイを本当に愛して、助けようと必死になる姿にもグッと来ます。

スマイリーは最愛の奥さんに出て行かれたこと(しかも浮気相手は4人の中に…)、コントロールに自分も疑われていたことを知ってしまったことなどで、表情や佇まいに哀愁がにじみます。
でも、ギラムに危険な任務を命じるところなど、スパイらしい非情さも漂っていて、このあたりのゲイリーの演技はさすがです。

時々、スマイリーや他の情報部員が公園の池で泳いでいる姿が出てくるんですが、プールとかないので、池がその代わりなんでしょうか?ちょっとコワイです^^;

ギラムはスマイリーに心酔していることがあちこちで感じられます。
盗聴器がある部屋で、その効果を確かめるためにスマイリーに「何かしゃべれ」と言われて、ギラムがそらんじたのが「カサビアンカ~忠誠のうた」という詩でした。
急に言われて選んだのがこれって、ギラムの心情そのものとしか言いようがありません。

身辺整理をしておくようスマイリーに言われて、同棲している恋人のリチャードと泣く泣く別れるギラム…切ないです。
ギラムがゲイである必要性はあんまりないように思いますが(原作にはないらしい)男同士の複雑な心情を取り上げてる映画でもあるので、その一環でこういう設定になったのかも知れません。

一方で、ある疑念からエスタヘイスに目をつけたスマイリーとギラムは、彼に近づきますが…。
この後、徐々にもぐらを追い詰めていく展開はスリリングです。

所々に、情報部内の過去のパーティ・シーンが挟み込まれますが、コントロールもいて、部員達もみんな楽しげな中、奥さんの浮気現場を見てしまうスマイリーや、ラスト近く、もぐらである男と、彼を思うある情報部員とが見交わす視線がまた切ないです。

部員はもぐらのことを信じてついてきたのに、大切に思う男は二重スパイでした。
その葛藤がラストにかけてよく描かれています。
ある行動の中で流す部員の涙に心打たれました。

この後、少しネタバレです。








この映画が評価が高いのは、ラストシーンの素晴らしさもあるでしょう。フリオ・イグレシアスの「La mer」に乗せて場面は進み、スマイリーが新しいボスとして椅子に座ると同時に曲が終わり、ライブ盤なので拍手と共に映画も幕を閉じます。なんて鮮やかな幕切れ!
スマイリーの昇進を喜ぶギラムの笑顔も見逃せません。
(ネタバレ終わり)







アカデミー賞の三部門(主演男優賞、脚色賞、作曲賞)にノミネートされたというのもうなずける映画でした。
映画サイトの人物相関図を見ながら観ていたので混乱することはありませんでしたが、もう一度観直すと、さらに発見がありそうです。
今度廉価版が出るそうなので、買ってみようかと思っています。