11/22/63 上下  スティーヴン・キング

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友人のアルから、過去に通じる抜け穴の存在を教えられたジェイクは、余命短いアルの代わりに、ケネディ暗殺を防ぐように頼まれます。アルの綿密な調査ノートを譲り受けたジェイクは、過去に戻って犯人のリー・オズワルドを監視し始めます。

歴史改変物のタイムトラベルストーリーです。政治家の暗殺に関わる点が、私がキングで一番好きな「デッド・ゾーン」と似ています。こちらは超能力でしたが。
東西冷戦、キューバ危機、人種差別、はやった音楽、番組、人々の生活…。キングは圧倒的なディテールでその時代を再現していきます。過去に戻っている間に、私たちもジェイク(過去での名前はジョージ)と一緒に、アメリカの5年間を共有している気持ちにさせられます。

ケネディが暗殺された1963年11月22日までの日々、オズワルドを追うだけでなく、タイムトラベルによって本当に歴史を変えることができるのか、別の事件に関わるエピソードが描かれ、飽きさせません。このあたりも、「デッド・ゾーン」を彷彿とさせます。

ジェイクがジョージとして生きる教師生活のパートが素晴らしいです。教師として素晴らしい資質をもつジェイクは、生徒に慕われ、演劇部の指導を通して生徒を育てて行きます。そしてやがて最愛の恋人セイディーと出逢います。
高校でのエピソードは幸せに輝くようで、オズワルドを監視し続ける、ピリピリとしたストーリーをふと忘れてしまうほどでした。

そして読んでいくうちに、ケネディ暗殺阻止を主軸としながらも、実はこれはラブストーリーなのだと思い始めました。
誰よりも大切な人を守るためにジェイクが最後にとった行動は…。
ラストシーンの美しさには思わず涙でした。

ラストシーンで思い出したのが、映画「バタフライ・エフェクト」です。
「一羽の蝶の羽ばたきが、回り回って別の場所で嵐を起こすかも知れない」という理論を元にしたストーリーです。映画と関わっているかは分かりませんが、バタフライ効果については、本作の中でも何度か出てきます。
過去で行った歴史の改変が、未来にどんな影響を及ぼすのか…。ジェイクはそれを目の当たりにすることになるのです。
もっと利己的に生きる道もあったと思うのですが、ジェイクはそうしなかったのですね。
映画の名ラスト以上に、本作のラストは心に深く残りました。

キングによって行われたタイムトラベル…過去にこだわるよりも、未来に向けて生きることの大切さを教えられたように思います。