悲しみのイレーヌ  ピエール・ルメートル

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カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第一作であり、作者のデビュー作でもあるフレンチミステリです。
「その女アレックス」の方が日本では先に出版されたため、本作の結末はある程度予想できるのですが、ある意味「その女~」の方を先に読んでいて良かったな、と。本作を読めばその理由が分かると思います。

カミーユは145cmという身長を物ともせず、頭の回転の速さと行動力はピカイチの班長です。愛する妻のイレーヌは妊娠中で、事件と共にこちらも彼の気がかりです。
カミーユ班の、富豪のルイ(亀有の中川的立ち位置?笑)、ケチのアルマン、反対に浪費家のマレヴェル、カミーユの上司である部長のル・グェン、それぞれいい味を出しています。あと、ITのエキスパートであるコブもいいですね。こちらは007のQのような感じでしょうか。

これらの登場人物が和ませてくれるのに対し、事件はひたすら陰惨です。
売春婦二人が信じられないようなやり方で殺され、その手口から、犯人は自分の殺人を誇示したいタイプだと思われました。
やがて、ある事実から、過去の未解決事件の中に、犯人が犯した殺人だと思われるものがいくつも見つかります。新聞記事を通して犯人と連絡を取ろうとするカミーユ
その一方で、警察の捜査内容がマスコミに筒抜けになるという失態があり、誰かが情報をリークしているといるということが分かります。

殺人についての犯人のこだわりに、ある共通点があるのですが、それがミステリとして魅力的なので、引き込まれてしまいます。
そして、この作品がミステリベスト10を賑わわせている理由。
第一部と第二部に分かれているのですが、その割合は9:1。目次のページ数を見ると、「え、何でこんな所から?」と思いますが、第一部の終わりまで読めば、衝撃と共にその理由が分かるでしょう。
ここからラストに向けての疾走感は半端ないです。着地点を知っていながら、ページをめくる手が止められません。

それにしても犯人が最悪で。今まで読んだ中でも1,2位を争う嫌なヤツでした。事件の描写のことがフランスで問題になったそうなので、グロ系がダメな人にはおすすめしません。

週刊文春に来日した作者の対談が載っていて、それによるとヴェルーヴェンシリーズはあと一作だそうです。「その女~」は陰惨な中にも、ほのぼのさせられるエピソードがあったので、三作目もそういうエピソードがあると嬉しいです。