鏡の花  道尾秀介

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大切な人を失った時、残された家族や周りの人々は何を思い、どのように生きていくのか…。
登場するいくつかの家族は共通ですが、章によって、亡くなっている人が違うのです。
1話で登場する瀬下は、癌で妻を亡くしたと語りますが、2話ではその妻は生きていて、亡くなるのは瀬下です。
鏡で映したかのような、パラレルワールドを描いているのがこの物語です。
もし亡くなった人が生きていたら…そう思うことはきっとあるでしょう。でも、本書ではその枝分かれの先が、必ずしも幸せではないこともあるのです。

「やさしい風の道」
昔住んでいた家を訪れた章也は、子供部屋がいくつあるのか確かめようとします。
子供を描く事が巧い道尾さんらしい作品です。

「きえない花の声」
瀬下の妻が、夫の死後、その行動について疑心暗鬼になります。同時に、瀬下の死の理由が明らかになるミステリ仕立てになっています。

「たゆたう海の月」
息子を失った瀬下夫婦が彼の足取りを辿る、こちらもミステリ仕立てです。やっぱり、子供を亡くす話はやり切れないですね。

「つめたい夏の針」
弟の章也を亡くした翔子は、弟の親友の直弥と共にオリオン座を見に行く事に。その中で弟のことを考えます。
これもつらい話です。亡くなる前に、自分がもしこうしていたら、もっとできることがあったのでは…と残された人ってそう思ってしまいますよね。

「かそけき星の影」
真絵美と直弥の姉弟は火事で両親を亡くしていました。その火事の原因について、直弥は思い悩みます。
これはミステリというより、心情を描いた作品です。このラストが、最後の章につながっています。

「鏡の花」
旅館に集まった今までの登場人物たち。いくつか事件も起こりますが、旅館の娘と、鏡職人だった祖父とのエピソードが良いです。
やっぱり、家族ってかけがえのない存在だなと思わされるラストでした。

家族をさまざまな側面から見ていて、家族だからこその喪失感や哀しさを描いたエピソードが多かったのですが、最後の章が救いになっていました。
白い蝶は、たぶん「光媒の花」と同じ蝶ですね。暗闇の中にいる人々を、光の差す場所へといざなってくれるのです。それが、家族がいる場所、自分を大切に思ってくれる人がいる場所なのだと思いました。